陸_アイドルはつらいよ
二話
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鬼灯の収録は午後六時には終わり、二人が閻魔殿へ帰ってきたのは七時近くだった。
ミヤコはスタジオの隅から、鬼灯の様子を眺めていたが、テレビだからといって営業スマイルをするわけでもなく、口調もいつも通り淡々としていて、これでゲストとして大丈夫なのかという思いが脳裏を過ぎった。
ただ金魚草に対する熱い思いは、冷静な表情とは裏腹にずんと伝わってきたから不思議である。
「でも鬼灯さん、初めは反対してたのに急にあっさりと『やってみればいい』なんて言ってくれて。もしかして話している内にわたしのアイドルとしての素質に気付いたとか!」
夕食の焼き魚定食を箸で突きながら、ミヤコがふざけて言った。
「いえ、素質は見出せていませんが」
「顔色一つ変えずに否定しますね」
「マキさんも一緒ならいろいろと教えてもらえると思ったし、まあ何より・・・・・・」
鬼灯はそう言いながら、頬杖をついてミヤコの顔を見つめた。
「ここ最近の中で、ミヤコさんの表情が一番明るくなった気がしたので」
「えっ、鬼灯さん・・・・・・」
「リフレッシュしてもらって、更にここの仕事に力を入れてもらえる」
「・・・・・・あっ、そういうことですか」
少しドキドキしてしまった自分を恥じたミヤコだったが、すぐに気を取り直して卵焼きを口へ放り込む。
「わたし一人だったら、ずっと反対してましたか?」
鬼灯はミヤコの問いかけに、口元まで持ってきていた味噌汁が入ったお椀をテーブルに置いた。
そしてはっきりと言った。
「当然」
「えーっ、何でなん!わたしだけやとそんなに不安なん?」
「そもそも今の今まで一般人だった人が、いきなり芸能界の厳しい事情の中でたった一人でやっていけるはずがないでしょう。あなたの場合、たまたまクライアントのイメージに合っていたからその場限りで出演が決まったのであって、この先もアイドルをやるわけではない。下積みだって経験もないし。遊びではないんですよ、この世界は」
「わ、わかってますよ」
「現世でもいろいろなアイドルグループが流行っていますよね。それを好んでファンになる人もいれば、また同じ数だけアンチもいる。難しい世界です」
「鬼灯さん、意外と詳しいですね」
「わたしはアイドルにハマって同じCDを何枚も買うようなことはしません。そもそもファンになりません。ただ、アンチ側の人間は『こんなただ顔の可愛いだけの子がどうしてこんなに人気なんだ』と、テレビの向こうで輝いているアイドルたちを嫌うわけです。本人たちは、一般人の我々には何でもないようなことも禁止されて、厳しいルールや上下関係の中で生きている。もちろん努力もしているでしょう。それを知らずにただ叩くのはおかしいのではないかと」
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