第百六十一話 紀伊へその十二
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「荘園を手放し僧兵もいなくなり」
「穏やかになっているそうじゃな」
「前に比べてかなり」
「殿は戦は望んでおられませぬ」
それは決してだというのだ。
「和を望んでおられます」
「その言葉信じて宜しいか」
高僧達の中でも上座の者が問うてきた、高野山の法主である。
「しかと」
「疑われますか」
「右大臣殿は勘気の強い方と聞く」
こうだ、何かを考えている目で問うたのである。
「それ故にかっとなれば」
「それはありませぬ」
雪斎は確かな声で答えた。
「殿は」
「そう言われる訳は」
「はい、殿は確かにすぐに何かを言われますが」
それでもだというのだ。
「勘気はありませぬ」
「ではその話は噂だと」
「左様です。その証にこれまで無駄な兵を動かされたことはありませぬ」
「そして延暦寺も」
「確かに戦はありました」
しかしそれでもだというのだ。
「ですがそれは最低限のことであり」
「無駄な血は流させぬと」
「左様です」
そうだというのだ。
「あの方はそれはされませぬ」
「そうか、そしてか」
「はい、この高野山もです」
決してだ、約を違えたり勘気を起こしそれで山に兵を送る様なことはしないというのだ。あくまで高野山が信長の話を飲めばだが。
「それはしませぬ」
「左様か」
「はい、若しこの話に偽りがあれば」
その時はというのだった、雪斎もここで。
「それがしを何時でもです」
「命を奪ってもよいと」
「はい」
その通りだというのだ。
「そのことを約束しましょう」
「我等は御仏に仕える身」
法主は雪斎の言葉にこう返した。
「それ故命はいらぬ」
「では」
「しかし約を違えば貴殿が御仏に偽りを言ったことになる」
「ここにも御仏がおられる故に」
「僧でありながら」
「だからですな」
「僧侶として御仏を裏切ることは最大の悪」
そしてだった。
「しかも恥である」
「拙僧がその悪と恥を受けますな」
「そうなる、それが約になるな」
「ではそれで」
「約としようぞ」
こう言ってからだった、法主は雪斎に今の本題を述べた。
「そして僧兵達はじゃ」
「彼等は」
「すぐに武器を捨てさせ学ぶことのみをさせる」
「では荘園も」
「檀家があるのなら」
それならというのだ。
「よい」
「では」
「右大臣殿の言葉お受けしよう」
雪斎に厳かな声で答える。
「我等は僧兵も荘園も手放す」
「有り難きお言葉、それでは」
「すぐに右大臣殿に伝えてくれ」
「さすれば」
こうして話は終わった、雪斎は高野山から降りてそのうえで信長に高野山からの言葉を伝えた。そしてその話を聞いてだった。
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