正義も悪もない。あるのは強さと弱さ
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海星は、いつも悔しい。なぜ、自分は兄を前にするとこうまで体が動かなくなってしまうのか。憎くて、殺したい相手のなのに――――今日まで、共同生活を許してしまった自分はなんなのだろう。
まるで蛇に睨めまれたように海星は動けない。嫌な汗が体を伝い、本能的に体は後退する。
「…………わかったわよ、でも私が手伝ったのは本当よ」
「――――そうか」
なにがそうか、だ大人ぶって偉そうにして。毒づいてやりたい気持ちを抑え、海星は自室に引き込もる。今日もダメだったという後悔を抱きながら。
エリザは――――ひかない。
必死に冥星を見つめる。どれだけ目の前の男が圧倒的な存在だとしても、絶対に許されることではない。人の手紙を、バラバラに破くなど。
「あ、謝ってください!」
「ごめんなさい」
「え? ……わ、私にではありません! 書いた人に、です!」
「絶対に嫌だね」
「あ、謝らせます」
「ほう……どうやって……」
「こ、こうやって、です!」
冥星は手が喉を締め付ける。自分で自分の喉を絞めるというのは自殺以外の何物でもない。ぎりぎりと潰すように喉が圧迫され、紫色に変わっていく。
「あ、謝ると言ってください」
「謝る」
「ほ、本当ですか」
「んなわけねーだろ」
「ど、どうして……どうして、あなたは……」
殺せるわけがない、と冥星は鼻をくくっていた。そして当然自分を殺すことなどエリザにはできない。
甘く、どこまでも甘く、自らを滅ぼしてしまうほど甘いエリザに、他者を傷つけることなど出来るはずがない。
こんな、どうしようもない奴隷をなぜ自分は。
「あなたは、きっと心が死んでいるのです」
「先日まで心を停止させていた奴が、よく言う」
「……きっと、後悔します。あなたは、自分がしたことに」
「わははははははははは…………エリザ、一つ言っておこう」
ひとしきり笑い転げた後に、悔し涙を流す奴隷を掴みあげるように冥星は同じ位置に立たせた。
「――――後悔とは、屑のすることだ」
エリザは燃えるような瞳を崩さなかった。案外強い女なのだと分かった。それだけでも今日はいい収穫だった。
ほんとに、いい収穫だったと、冥星はポケットの紙くずを大事そうに触った。
愛と憎しみは同時に両立する。
つまり愛を感じることがあれば、同時に憎しみもそこには存在するのだ。
誰もが、愛だけをもらうことは不可能だ。
だから、憎しみは増幅する。小さな子供だったとしても。
「よぉ……これ、お前らが書いたんだろ?」
「ひっ……め、冥星……な、なんのよう? 私たち、忙しいんだけど」
「隠すなって、吉野を叩きのめしたとき、お前ら怒ってたもんなぁあんな雑魚に尻尾振ってんだもんなぁ……
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