正義も悪もない。あるのは強さと弱さ
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してください」
「できないと思いま――――ひゃう!? 冥星さま!?」
「なんだこれは? ゴミの山だな」
風呂上がりの濡れた髪のまま、冥星はうっとおしそうに手紙の山をかき分けた。途中で手紙を読み上げるたびにエリザは顔を赤くにしながらあわあわと叫びだす姿は滑稽だった。
「なーにが結婚してくださいだ。ガキのくせに」
「も、もうやめてください――――!」
「…………最悪」
少女たちの非難の声をものともせず、冥星は次々に手紙を読み上げていった。もう、エリザのライフゲージはゼロに近い。涙目になりながら冥星に訴える姿に満足したのか、悪魔は最後の分を読み上げようとした。
「――――――?」
「あ、あの…………」
「これは……流石の俺にも、刺激が強すぎてちょっと音声に出せません……」
「なんで敬語なのよ……」
顔をちょっと赤らめながら敬語を使う冥星はとても気持ち悪い。エリザは遂に泣き出してしまい、大惨事だ。満面の笑みで冥星はその手紙を大切に保管して額縁に飾ると宣言した。
本当にどこまで人を貶めれば気が済むのか、という海星の訴えは聞こえない。
「う……ぐすっ……か、返してください…………」
「いやだ」
「か、返して……」
「! このっ……!」
予想外に、エリザは冥星から手紙を奪うように襲い掛かってきた。なんてことはない女の力だ。だが、想定外の出来事に思考を停止した冥星は、こうするしかなかった。
「……ひ、ひどい…………」
手紙はばらばらに破け、宙へと舞う。その紙切れすら、冥星は一枚たりともエリザに渡すまいと拾い集め、ポケットへしまった。
うつむいたまま、エリザの涙は床を濡らす。海星は黙ったまま非難の目を兄に向けた。
「どうして」
「なんだ?」
「どうして、こんなことをするんですか」
「聞くと後悔するぞ」
「言ってください!」
「おもしろいからだ」
エリザは冥星に立ち向かうように燃え上がる赤い瞳を真っ直ぐ向けた。プラチナブロンドの美しい髪が風もなくたなびく。
まるで女神が降臨したかのように、その風景は幻想を纏っていた。少なくとも、海星にはそう見えた。
あの兄に、刃向かう者がいたなんて……それも、自分と変わらない少女が……。
「あ、あなたは最低です……! 人の心を踏みにじり、蔑む……ま、まるで悪魔のよう……」
「ほう? ではお前の行為はなんだ? 人がしたためた手紙を、こうやって見せつけるのが正しい行いなのか?」
「あ、あなたが勝手に見たんじゃないですか!」
「海星はどうだ?」
「か、海星は、手伝ってくれて」
「人のせいにするのか?」
「……うっさな兄……」
「失せろ、愚昧」
「…………う」
「聞こえなかったのか? 失せろと言っているのだ」
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