正義も悪もない。あるのは強さと弱さ
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――――私が殺してあげる。可愛そうだから」
強烈な悪意を耳にした。その瞬間、女とは違う者の殺気を感じた。うっかりすれば首から下までを圧潰させるかのようなプレッシャーを浴びるように受ける。放ったんはおそらくあの奴隷。六道凛音だ。やがて姫が遠ざかるにつれて薄れていくのを呆然と見つめていた。
「やれやれ、あれは相当病んでるな。隼人も、さぞ大変だろう」
帰ってエリザをいじめようと、先ほどの出来事も忘れ冥星は口笛を吹きながら今日の晩御飯を想像し心を躍らせるのだった。
「エリザ、どうですか、我が家は?」
「は、はい。その、慣れてきました……」
「それは生活に? それともあの屑に?」
「あぅ……その、どっちも、です」
「前者はいい傾向ね。だけど後者は最悪な方向に捻じ曲がっているわよ」
「え、えへへ……」
卑屈な笑みを浮かべながらエリザは食後の会話に花を咲かせていた。今、幸いなことに冥星は入浴中だ。この数分だけが、エリザにとって心安らぐ休息の時間となっている。朝から寝るまで、冥星はエリザを悪い意味で拘束しているからだ。
「よい……しょ」
「うわ……エリザ、それもしかして全部ラブレター?」
「はわ……そ、そうなんでしょうか? ま、まだ中身は見てないんです……」
「……ちょっと中身、見てもいい?」
構いませんよ、とエリザは軽く返事をした。この山のような手紙を一人で捌くのは骨の折れる作業だ。海星が手伝いを申し出ているのに断る理由はない。
手紙のどれもが痒くなるような愛の言葉だった。ふざけているやつもいるが、大半は真剣にペンを握っていたに違いない。中には数十枚に渡って、エリザの事をどう思っているか、を認めている者もいる。
「私ももらったことあるけど、エリザほどじゃないわね」
「あ、あはは……恥ずかしいです……」
「それで? どうするの?」
「え…………」
「誰か、お目当ての男はその中にいる?」
「え、えと、私、多分まだクラスの人全部覚えられなくて」
彼らは早まった。たった数週間クラスを共にした程度で顔を覚えていられるほどエリザは天才的な記憶力を持ってはいない。まして、奴隷という身に堕ちた自分がこれからどうして生きていけばいいのかという不安が真っ先に降りかかっていたのだ。
今だって、その不安がないわけではない。このままでいいのかすらもわからないままだ。
それに、エリザは恋などしたことはない。男の人と言えば父親か、自分を人形として売買した商人ぐらいだ。年頃の男の子と出会ったことなど冥星が初めてだった。
彼はまるで風だ。エリザはそう思った。恐れを感じず、ただ突き抜け、突破していく。
自分ではとても追いつくことのできない、風。
「あっ」
「だから、私には恋なんて――」
「結婚
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