第十三話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その7)
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「無駄ですよ」
侯爵夫人が俺を見た。おぞましい狂気の目……。
「伯爵夫人を殺しても陛下が侯爵夫人の元に戻ることは無い」
「そのような事は……」
「何故なら、陛下が侯爵夫人を遠ざけたのは貴女を疎んじての事ではないからです。陛下は貴女を守りたいと思った……」
「……」
少し目が和んだか。
「貴女の産んだ子を殺したのは先代のブラウンシュバイク公でもリッテンハイム侯でもない、ルードヴィヒ皇太子です。そして貴女が三度流産したのは貴女の実家、アスカン子爵家の差し金だった。貴女はそれを御存じでしょう。陛下もそれをご存知です」
「……」
ベーネミュンデ侯爵夫人の顔に驚きが走った。彼女は皇帝が知らないと思っていたらしい。当然だ、もし皇帝がそれを知っていると彼女が知ったらどうなるだろう。とても顔向けなどできまい。皇帝は彼女を守るため知らぬ振りをするしかなかったのだ。
「陛下は貴女をこれ以上宮中に置くのは危険だと思った。それ以上に傷付く貴女を見たくないと思ったのだと思います。何と言っても元はと言えば陛下が侯爵夫人を愛した事が発端だった……」
「……妾は陛下のお傍に、ただそれだけを……」
リヒテンラーデ侯を見た。首を横に振っている。哀れな女だ、思わず溜息が出た。市井に生まれていればちょっと焼き餅焼の良い妻になれたかもしれない。だがフリードリヒ四世は皇帝だった。寵姫には常に政治が付きまとう。そして政治と言うのは残酷な現実でありハッピーエンドの御伽噺ではない。この女の不幸は政治を知らないという事だ。
「残念ですが陛下はそれをお許しにはなりません。もし、今侯爵夫人が宮中に戻れば、アスカン子爵家は必ず貴女を殺しますよ」
「……」
リヒテンラーデ侯は俺の言葉を否定しなかった。侯も同じ意見なのだろう。
「帝国の後継者は決まったのです、体制も決まった。次期皇帝はエルウィン・ヨーゼフ殿下、皇后にはサビーネ・フォン・リッテンハイム。ブラウンシュバイク公爵家は軍、貴族の重鎮として、そして皇帝に最も近しい一族として皇帝を助ける。リヒテンラーデ侯は政府首班として皇帝を輔弼する……。分かりますか? 政府、軍、ブラウンシュバイク公爵家、リッテンハイム侯爵家、この四者が協力体制を結んだんです。私がブラウンシュバイク公爵家に迎えられたのはそういう意味です」
「……」
「アスカン子爵も当然それは知っている。ここに貴女が入ってきて皇子を産んだらどうなると思います? 貴女が皇后になろうとしたらどうなるか? 折角まとまった体制にひびが入る事になる。そんな事を四者が許すはずが無い、アスカン子爵家は今度こそ潰される、そう考えるはずです。そしてそれを防ぐには侯爵夫人、貴女を殺すのが一番確実なんです」
先程までの狂気は無い、彼女は俯いている。彼女にとっては
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