第十三話 ベーネミュンデ侯爵夫人(その7)
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された事を思えば何が起きたか辿り着くのは難しくなかったはずだ。皇帝は決して凡庸ではない。
全てを知った皇帝はベーネミュンデ侯爵夫人を遠ざけた。愛情が冷めたのではない、むしろ逆だった。自分が侯爵夫人を愛し続ける事は危険だと思ったのだ。これ以上流産が続けば彼女の心が持たないと思った。皇帝の話では彼女は誰が流産を仕組んだか知っていたらしい。“彼女にとって宮中は地獄だっただろう”、皇帝の言葉だ。
皇帝は言わなかったが彼女を遠ざけた理由はもう一つあるだろう。これまでは流産で済んだ、しかし次は流産ではなく夫人の命が奪われるかもしれない……。そう思ったのではないか。皇帝は彼女を愛する事よりも彼女の精神と生命の安全を図った。それ以来皇帝は彼女を近づけていない。
ベーネミュンデ侯爵夫人に代わって皇帝の寵を受けるようになったのはグリューネワルト伯爵夫人だった。彼女の肉親は酒浸りの父親と五歳年下の弟だけだ。彼女を利用して利益を得ようなどと言う貧乏貴族もいなければ権力を得ようとする野心家の一族もいない。それでも皇帝は彼女を愛しはしても子供を産ませようとはしていない……。
「嫌な仕事だがやらねばならんの」
「全くです。そろそろ行きますか」
「そうじゃの」
言葉とは裏腹に溜息が出た。侯も溜息を吐く。二人とも重い足取りでベーネミュンデ侯爵夫人邸に向かった。侯爵夫人邸は新無憂宮の一角にある。ここから遠くは無い、地上車を使えば直ぐに着くだろう。
八月十四日の午後、ベーネミュンデ侯爵夫人邸を俺とリヒテンラーデ侯が訪ねた。玄関は大理石造りだ、金かかってるよな。皇帝の寵姫ともなると屋敷も大したものだ。来訪を告げるとサロンに案内された。昔、彼女が皇帝の寵姫として寵愛を独占したころはこの屋敷には大勢の人間が通ったはずだ。いずれも皆帝国の重要人物だっただろう。今は皆無に近いはずだ。そして今日、俺とリヒテンラーデ侯がここに来た。
侯爵夫人が俺達をサロンで待っていた。美人と言っていいだろう、黒髪、碧い瞳、そして紅い唇、程よく調和されている。もっとも少し表情がきつい様な気がする。先入観の所為だろうか……。侯爵夫人が艶然と微笑んだ
「ようこそ国務尚書、お久しぶりですわね。お連れの方はどなたですの、ついぞ見かけた事が有りませんけど」
笑みは浮かべているが言葉には明らかに毒が有る。俺を知らないなどありえない。侮辱しようとでも言うのだろう。彼女にとってブラウンシュバイク公爵家は憎むべき存在だ。彼女の流産の原因はアスカン子爵家だが、彼らにそれを決断させたのはルードヴィヒ皇太子、ブラウンシュバイク公爵家、リッテンハイム侯爵家だ。
リヒテンラーデ侯も彼女の毒に気付いたのだろう。生真面目な表情で答えた。
「侯爵夫人には御存じありませんでしたか、ブラウンシュバイク公
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