番外編
その4 湊耀子の献身
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――いやな予感はしていたのだ。
人造人間――人が造ったヒトなど、本来なら凌馬の専門外だ。神の力を望む彼女たちでも、人を造ろうという考えは誰一人持たなかった。
「支配」ならともかく「創造」は人である自分たちの手には余ると、心の奥で思っていた。シドや、凌馬でさえ。
それなのに――
『破壊してあげよう』
目の前の惨状は何だ。誰がこんな、鉄くれの残骸だらけの光景を作り上げた。倒れ、呻く黒影トルーパーやスイカアームズの現場を作り上げた。
――ハカイダーという人造人間に意識を移した、戦極凌馬だ。
ハカイダーが量産型黒影の一人にトリガーを引き絞ろうとした時だった。湊はマリカに変身し、ハカイダーに攻撃をしかけた。
普段ならマリカが圧倒する。だがハカイダーのスピードにも力にもマリカは勝てない。
それどころか、リニアガンで数回殴られただけで膝を突いてしまった。
「おやめください」
銃口を目の前にしながらも、湊はロックシードを閉じて変身を解いた。マリカではなく湊耀子として、戦極凌馬と向き合わねばならないと、危機感に近いものを感じたのだ。
ハカイダーは興が削がれたといわんばかりに、リニアガンを引いた。
「そろそろ、元の体に戻られてはどうでしょうか?」
『冗談を言わないでくれ。まだまだ破壊が足りない』
唖然とした、と言っていい。今の言葉は普段の凌馬なら絶対に発しないものだ。
(いいえ。そもそも最初からおかしかった。データ採集だけなら、今みたいに内部の戦闘で事足りた。なのにあえて一発目の試運転で街に出られた。あの人らしくない。まさか、本当に機械に乗っ取られてしまったっていうの?)
湊の不安など知らず、凌馬であるはずのヒトは、くかかか、と笑い続けた。
テスト終了日より早く、凌馬の脳はハカイダーから取り外され、元の体に移植し直された。街で著しい損傷を受けたことと、凌馬自身がそれを希望――嘆願したという理由によって。
医療部門フロアの病室のベッドの上。凌馬はまさに悪夢から醒めた顔をしていた。
「この私が、破壊衝動に取り憑かれるなんて――」
凌馬が目に見えて怯えている姿など、湊は初めて見た。どれだけインベスがいる場でも飄々とした態度を崩さなかったあの凌馬が。
「実に危険なアンドロイドだ。こんなモノを必要とするなんて、ダークという組織……何をするつもりだ……?」
彼は「いつものよう」に振る舞うことで落ち着きを取り戻そうとしていた。
どんな言葉をかけても、きっと凌馬の戦慄は治まらない。そう判断した湊は、黙ってただ凌馬の両肩に手を添え続けた。
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