どうしようもない主人公だな
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だが。
「忘れ物したが……まぁ、いっか」
昨日の晩、騒ぎを起こした冥星だったがその勝利に酔いしれるあまり持ってきた小太刀をそのまま大蔵屋敷に置いてきてしまった。一応、形見としてもらった名のある品なのだが、林檎がなかったことにひどいショックを受け、そんなことを言っている暇はなかった。
「お前のせいだ、このブス!」
「…………」
「おい、返事をしろ、奴隷」
「…………ぃ」
「くそ……とんだ厄介者を拾ってしまったぞ……ブスだし、根暗だし……海星が二人いるみたいだ……」
冥星は頭を抱えて悩んだ。前者に関しては冥星の美人像が他者と異なるためであるが、後者に関しては確かにその通りだ。誰がどう見ても根暗、というか生きているかすら不安になるほど生気を感じられない。
「エリザ・サーベラスさんだ。フランスからの転入生で、秋坂冥星、海星兄妹の家にホームステイすることになっている……のだったな、冥星」
「? そいつは俺が拾ったんだ。林檎を吐き出すまで苛めまくって遊ぶためにな。奴隷だ奴隷」
「よし。じゃあエリザ、空いてる席へ……あの白いバカの前になるな。それと、冥星、後で職員室まで来い。当然反省文だ」
「反省することなど何もない。俺はそいつ救ってやったんだぞ」
クラスに笑いが走る中、エリザは一言も喋らなかった。視線が怖いのだ。自分を見つめる目が、例え、悪意を持っていなかったとして今、この世界にいるすべての人間がエリザの敵なのだという錯覚に陥る。
それは長年の監禁生活で歪んでしまったエリザの精神が大きな原因だ。
それに、彼女は救われたなどとは思っていない。新しい環境になっただけ。いつもの通り黙ったまま注射を打たれて昼夜問わず体を撫でられたあの日々と対して変わらない。
エリザは身も心も壊れてしまった。
「わかっているのか、ブス? おい、ブース!」
「…………ぁい」
声が掠れる。エリザをもらった少年は平気で罵声を浴びせる。自分と同じ外国人のような白髪だが、東洋人特有の漆黒の瞳。背丈は自分よりも少し低く、体はほっそりとしたどこか気品を感じさせる姿。姿だけ。その他はエリザにとって苦手な人種そのものだ。
声が大きい。キツイ性格。胃がギュッとなるほどの悪口。乱暴者。
まるで悪人を絵にかいたような人物。
自分はついでに助けたのだと言っていた。林檎を吐き出すまで生かしているだけだと。
林檎を吐き出す? そんなことは不可能だ。食べてしまった物はもう、どうにもならない。
ならずっと私は彼の奴隷なの? ゾッとした。涙が溢れて止まらない。エリザは大衆の前で訳も分からず涙を流した。
「冥星、職員室、な」
「…………ブス」
エリザの世界はモノクロのままだった。
「あああああああああ
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