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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の2:拳と杖
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鐘に打ちつける。杖と鐘の間に指が挟まれチェスターは思わず杖を足元に零しが、慧卓がそれを掴むより前に前方へと蹴飛ばした。からからと地面に円を描きながら、杖は入り口の戸の近くで止まる。
 杖に意識を取られた慧卓は一瞬其方へと目を向けてしまう。その煌きを視界の端に収めながら、形勢逆転と図らんとばかりにチェスターが慧卓の下腹部を肘で鋭く突き、俄かに前のめりとなった彼の顎を反対側の拳で突き上げようとする。

「しっっ!!」
「うおっ!?」
  
 慌てた様子で慧卓は距離を開けようとするが、無防備に広げられたその腕、手首辺りをチェスターはがっしりと掴み、己の膂力を使って全力で引き戻しに掛かる。肩に痛みを覚えながら慧卓は身体を振られ、聖鐘の縁の部分に思いっ切り額をぶつけた。悶絶の息を漏らす慧卓は不快げに言う。

「っぃっぃいいいっつ!てめぇっ・・・!」
「借りた分は返したぞ・・・!」
「俺は端っこ狙ってやってねぇぞっ・・・!!」

 怒りと痛みで表情を歪めた慧卓は果敢に立ち上がり、チェスターに殴りかかった。

「むっ!」

 乱暴に振り回されるその腕は格式ばった動作ではなく、洗練された振りでもない。しかし元々武道に親しき国に生まれた所以か、スクリーン越しに観た映像より覚えたその動作を、ほんのわずかな部分であるが慧卓はトレースをしていた。殴りかかる際には拳を捻ったり、腰に軸を置いて体幹を崩さなかったりなどだ。 
 だがチェスターにとっては多少の驚きこそあれど、児戯の技に見えるものであった。数度の振りをかわしただけで慧卓の実力を推し量り、チェスターは相手の正拳突きに合わせてカウンターの直刀蹴りを叩き込む。

「ぃぃっ!?」

 一瞬の攻勢の躊躇いが慧卓の不運であった。華奢な身体が小さなくの字を描き、前のめりとなった顔にチェスターの拳が無遠慮に突き刺さる。頬に拳を受けた慧卓は自分から力を流していき、過剰なまでに吹き飛ばされて聖鐘に背中を打ち付けた。
 再度飛んでくるチェスターの大振りの拳を避けようと慧卓は身を素早く屈め、聖鐘の下を潜り抜けて反対側へと前のめりに転がるように出でる。そして我武者羅に目前に転がる杖を掴んだ瞬間、奇怪な事に、杖の宝玉に同調するように頸に掛かったアミュレットが光り始めた。

「はぁっ!?」

 思わず素っ頓狂な声を漏らす慧卓の胸に、不意に漲るような力が沸いて来る。それは慧卓の胸中から生まれるものではなく、寧ろアミュレットの宝玉から生じるものであった。宝玉が、触れている大気から力を吸い込むように紫紺の光を放ち、それを慧卓の腕を通じて杖の先端へと送っているのだ。
 かんかんと、走り寄って来る足音に慧卓がはっとして面を上げて振り向こうとし、その目が聖鐘を吊るす極太の荒縄へと送られた。慧卓は弾かれたようにそれ
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