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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の2:拳と杖
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そっと柱から顔を覗かせる。巨大な聖鐘を挟んで相対する相手の姿は見えず、ただ徒に足音だけが緊張感を催していた。ふとその歩調が一気に早まり、鐘の左側から杖の禍々しき赤光が煌いた。途端に其処から揺らめくような火が生まれ、顔面と同等の大きさの火球を放出した。

「うおっ!!」

 それまでの二倍近くの火球に慌てて顔を引っ込めて身体を捩る。火球は石壁を掠めながら宙を裂いて消えてゆくが、その球は慧卓の外套に大きな炎を燈していた。腿辺りに強烈な熱を感じ出す。

「あっち、あっちっちっ!!」
 
 慧卓は急ぎ外套を脱ぎ捨ててそれを丸め、引火した部分を必死で叩く。外套は背中に大きな穴を作り、ズボンの部分にも俄かに茶褐色の焦げ目を作ってしまった。

(どうすんだよこれ・・・まだ新品なんだぞ・・・)

 一日で用無しとなった外套を抱きつつ、慧卓はそっと頭を石壁に預ける。
 火球が放たれた場所より、ゆっくりとチェスターが姿を表した。圧倒的な立場を誇りつつも、その顔はすっきりとしていない。幾度も火球を放っても慧卓に直撃せず、思った以上に時間が取られてしまったのが大きな要因であった。

(・・・肝心な所で避けるな。中々に機転の良い奴。まぁ次は外さないだろう)

 慧卓が潜む石壁まで残り十数歩。仮に反対側の壁に逃げようとしたとしても、聖鐘の下方から火球を放てば確実に足を焼ける。此方に向かおうとしたならば尚更である。
 チェスにいうチェックメイトを決める気分でチェスターは悠々と近付く。その距離が更に縮まった瞬間、黒い影が予想した方向へ飛び出した。

「っ!!」

 チェスターは反射的にそれ目掛けて火球を放つ。先よりも更に早く打ち出された轟々と燃え盛る火球は、寸分違わず、宙を泳ぐ黒い外套を燃やし尽くす。だが其処につんざめく悲鳴や、肉が焼ける音は存在しなかった。

(外套だけか!)

 そう思ったと同時か僅かに早く、外套が放られた所とは反対側の影から、慧卓が真っ直ぐに突っ走ってきた。 

「こんのぉっ!!」
「ちっ!!」

 二度目の放出は間に合わない。そう思って杖を振るわんと翳したが、慧卓が一手早くその行動を阻止せんと杖に手を伸ばし、無遠慮に掴み取る。両者は杖を挟んでその所有権を巡るように睨み合い、その足元で払いや突きの攻防をしながら、手摺の無い鐘楼の石畳をふらふらと彷徨い歩く。
 押しては退いて、流しては力んでの単純な攻勢を変化させたのは慧卓であった。相手が押し返そうと身体を強張らせた瞬間、身体の力をふっと抜いて相手を躓かせ、その後頭部に手を遣って聖鐘へと持っていった。聖鐘の金色の肌にチェスターの頭部が全力でぶち当たり、低く金属質な衝突音が響く。

「ぐっっ!?!?」

 呻くチェスターの後ろから回り込んで杖を握る手を
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