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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の2:拳と杖
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をよじって回避し、或いはタイミングをずらしてそれを逸らしていると、今度は鞭のような外払いの下段蹴りが飛んで来てアダンの腿を痛みつける。後退する彼を追うように大男は蹴りを放ち、回し蹴りも決め込む。アダンをサンドバックに見立てるかのように大男は左右へ足を運び、様々な角度から重き拳を放つ。而して全てにおいて回避され、或いは肝心な部分を逸らされるのは偏にアダンの手練の賜物といえるであろう。
 幾度の攻撃の最中に耐え抜きながらアダンは反撃の手も緩めず拳を胴に打ち込む。そして大男の左フックに合わせて、己の下からの突き上げの拳を見舞わせた。拳が鼻に突き刺さり、血の温かみを指の外皮に感じた。そしてそれと同じくして大男の右の直突きがアダンの頬を打ち抜き、両者の足を後退させる。
 鼻から滴る血に笑いつつ、大男、熊美は快活に言う。

「久々に骨のありそうな奴と遭えたな。我が武の前に平伏せ、剛力の盗賊」
「けっ。ドワーフ舐めてんじゃねぇよ、羆の爺。今すぐその牙叩き折って研磨して、ネックレスにしてやらぁ」

 手近の武器棚にある剣をむんずと掴み取りつつ、アダンは眼前の強敵に啖呵を切った。熊美はそれに応えるように武器棚の剣を握り締め、ゆるりとその切っ先をアダンに向ける。殴り合いはいわば挨拶のようなもの。そう思わせるが如き尋常ならざる殺気を醸して、両者は互いの瞳を睨み付けた。
 肝を冷やす末恐ろしい光景に、逃げればいいものをその場に踏み止まってしまったパウリナは、ずりずりと足を動かして、入り口近くの壁に背を預けて尻餅をついた。ごくりと飲み込んだ唾はやけに苦味のあるものであった。





 空気を焦がすじりじりとした音と共に火球が宙を凪ぎ、石壁にぶち当たって枯葉が集ったような火花を散らした。陽射以上に攻撃的な熱さを伴ったそれを避けつつ、石壁から石壁へと逃げ渡っている青年、慧卓は充分に荒げた息を整えようとする。
 
「・・・はぁ・・・はぁ・・・っっ!!」

 頬は幾度の炎の余波を受けたか煤が目立っており、警備兵の黒い外套は所々が焼け付いて焦げ目を作っている。命の度重なる危険に瀕してか、表情には余裕が失われており、目がはっきりと見開かれている。
 反対に、金色の光を放つ聖鐘を挟んで火球を幾度も繰り出した者、チェスターは実に涼しき表情を浮かべたまま、まるで学説を唱える論者の如き口調で言う。

「出てき給え。理性的な人間であるなら分かるだろう、この炎は偽り無く、本当に肉を焦がす火であると」
「で、出たら問答無用で焼くんだろ!?」
「安心して出て来た方が身のためだぞ、警備兵。次からは火力を高めるからな」
「ちっ!レアかミディアムかの違いだろ!?」

 かつかつと、聖鐘の聳える場に足音が響き、横から横に吹き抜ける風に混じって宙に消えた。
 慧卓は
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