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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の2:拳と杖
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たは身のこなしが良いだけの唯の小娘だ。盗賊の世界に足を踏み入れたのが間違いだったな。だから俺のような奴と出遭った時、どうすれば良いかを全く理解していない」
「へ、へぇ?ど、どうすりゃ良いんだよ?」
「簡単だ。命乞いをして相手の情けに期待をするのだ。俺は容赦はしないからやっても無駄足だな。足を踏み入れただけに」
「う、上手くないんだよっ!この馬鹿虎!」
「虎を馬鹿にするなっ!!!」

 裂帛。アダンは距離を一気に詰めんかといわんばかりに疾駆する。パウリナが階段へと身体を滑り込ませるのと同時にアダンの拳が空を切った。その速さは疾風の如きものであり、掠っただけで頬肉が千切れて飛びそうなほど。
 態勢を取り戻したアダンは、崩壊した階段の手摺から階下へと飛び降りるパウリナの姿を見遣った。

「待たんか、小娘ぇ!!!」

 その声を無視してパウリナは只管に出口へと突っ走る。背後の床にアダンが着地する音が響いたが、その頃には建物の出口は目と鼻の先であった。

(おっしゃあああっ!これで外に出られーーー)
「おぶっ!!」

 突然目の前に立ち塞がった厚い壁に顔が潰れ、疾駆の勢いが止まる。いたく筋肉質で熱さを帯びた壁である。

「ふん!案外トロいな、小娘!!そんな所で立ち往生とはーーー」

 パウリナを捕えんと走り出そうとしたアダンは、その壁を見遣って動きを止め、警戒を隠しもせずに身構えた。パウリナはおずおずとその壁から離れて、ゆっくりと上を見遣る。壁と思っていたものは、壁と錯覚して当然なまでに鍛え抜かれた鋼鉄の筋肉であった。厳しき羆のような大男が、それに相応しき老練で厳格な顔つきをして彼女を見下ろしていた。

「・・・娘、一体誰がこんな事を?」
「ああ、あ、あれ、あれです!!あの虎柄の馬鹿です!!」

 大男の視線に怯えつつ、パウリナはアダンを勢い良く指差した。彼女を脇へ押しやって男は歩きながら近寄る。

「おい貴様。虎殺しのアダンだな」
「・・・へ、へぇ。如何してそんな事を」
「手配書に乗っていたぞ。ほら、見てみろ」

 大男は懐から手配書を掴んでばっと投げ付ける。両者の鋭き視線の間に紙が漂い、一瞬の障壁となった。途端に大男が地を滑るかのように足を運び、猛然と拳を振り抜いてくる。その俊敏さはアダンのそれに及ばんかという程。

(早っーーー)
「ふんっ!!!」

 隙の無い一撃が顔面に飛んでくる。アダンはそれを間一髪で回避して反撃の拳を胴に放つ。而して鋼鉄の如き体躯にはそれは優しき叩きに相違無きもの。大男はそれを児戯の抵抗と看做し、勢いを増すかのように二度、三度と拳を振り抜いてくる。脇溜めからの二の腕への一撃はドワーフの膂力を以ってしても痛みを覚えるほど。
 下方から突き上げるかのような拳の連打を身体
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