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王道を走れば:幻想にて
第三章、その4の2:拳と杖
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な光景を見る。壁一面の何の変哲の無い白い石の壁面にに複雑な起伏を浮かべた台形の地図が、まるでスクリーンに映写機が像を映し出すかのように描かれており、その北側の中央辺りに赤い光点が刺さっているのだ。どの壁面にも同じような地図が描かれている。縁に海岸のようなゆらりゆらりとした歪みを抱いた特徴的な姿は、明らかにこの王国領土、そして紅牙大陸全土を顕した地図であった。

「か、壁に投影しているのか・・・頭良いねぇ・・・」

 適当にそういってのける慧卓とは裏腹に、チェスターはその赤い点をじっくりと見開いた瞳で見詰めていた。その赤い光点は台形の上半身、右肩よりの小さな穴の近くで光っている。

「・・・此処は北嶺・・・エルフ自治領か?」

 その言葉を慧卓は聞き漏らさなかった。痛みに耐える傍らにその光点が差す場所を脳裏に刻み付ける。
 ふと、壁越しに何やら急いたような足音が響いてくるのが聞こえた。その音は螺旋状にどんどんと登り、そしてトカゲのような見た目の翠色の鱗肌を伴って頭上高くに現れた。
 
「棟梁、何ヲやってイル!!」
「ビーラ!!」
「聖鐘騎士団が来ているノガ見えタゾ!さっさと来イっ!逃げルゾ!!」
「分かった!」

 チェスターは壁面の光の地図の一度見てから、颯爽と聖鐘の肌を蹴り登ってその頂点に辿り着く。ビーラがさっと垂らしたロープを掴み、チェスターは悠々と逃走を図っていく。

「っ!!待てお前っーーー」
「シィッ!!」

 慧卓が追い縋ろうとした瞬間、ビーラが回収していた魔道杖を振り抜いて火球を放った。火球は駆け出そうとした慧卓の足元に弾け飛んで豪快な爆発を生み出し、石造りの床を砕き散らす。
 顔を守ろうと腕を覆った慧卓に向かい、ロープを登り終えたチェスターは猛々しく言う。

「何れまた会おうっ、若人よっ!次こそは剣で相見えようぞ!!」

 下方を見下ろす二者の姿はその言葉を皮切りにさっと消え去り、足音だけを残していった。巻き上がった粉塵が晴れ、慧卓は腕にくっきりとした火傷を残しながらチェスターらが消えた方向を悔しげに睨みつける。ご丁寧にロープも巻き上げられていた。
 完全にしてやられた格好である。あの未練の感じられぬ颯爽とした所作、明らかに彼らの目的は達成されたものであろう。空気に触れてずきずきと傷みだす腕を庇い、だらだらと額に浮いてくる汗を垂らしながら慧卓は小さな溜息を零す。

「はぁ・・・どうやった抜け出そうかなぁ・・・」

 所在なさげにその場に座り込む慧卓。助けが来るのを待ちつつ、彼はなんとなしに壁面の地図を見詰めた。

(・・・北のエルフ、か)

 未だ見ぬ北嶺の雄大な自然、そして其処に住まう幻想の人種。一つ聞けば心が沸き立つ筈の単語であるが、己の職務を全う出来なかった慧卓の胸の
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