反董卓の章
第25話 「……本当に、これでよかったのかの? 玄徳殿……」
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―― other side 洛陽 温徳殿 ――
「……本当に、これでよかったのかの? 玄徳殿……」
温徳殿の渡り廊下で、劉表は前を歩く劉備を呼び止めた。
劉表にとっては予定通りの展開であるとはわかっていても、どうしても納得出来ないものはあった。
だが、そんな劉表の内心を裏切るかのように、振り返った劉備の顔は笑顔で満ちていた。
「はい。これでいいんですよ」
劉備の笑顔には、一片の曇りもなかった。
心の底から笑っているように、劉表には感じられる。
「……じゃが、の」
「いいんですって、景升様。私には将軍職すらもったいない恩賞です。元々、州牧どころか刺史になったのだって二年も経ってないんですから。早過ぎるぐらい早い出世だと思いますよ?」
劉備の言葉に嘘偽りはない。
無位無官で義勇軍から成り上がった劉備が、たった二年で州牧であり末席とはいえ鎮軍将軍という将軍位まで得たのである。
劉表という後ろ盾があるにしても、この出世は異例中の異例といえるものだった。
だが、それでも成した功績を鑑みれば、それでも報いるに足りないと劉表は感じている。
「それでも、じゃ。すべての功を儂や孟徳の嬢ちゃんに譲って……お主は一体何を得たというのじゃ?」
劉表にとって、今回の自分の功は全て劉備の……いや、盾二の功績と言える。
自分は単に連合に参加したにすぎない。
劉表自身の兵の損失は、逃散によるものが全てだった。
にも拘らず、連合の第一武功とされたのだ。
正直言えば、それが一番後ろめたく感じているのである。
「十分……十分過ぎるほどのモノを得ました。過分なほどの、恩賞を……」
「………………」
静かに呟く劉備に、その真意を探ろうと目を細める劉表。
多少なりの裏事情は知っているとはいえ、それがとても功に見合うとは思えない。
なにしろ……『厄介者』を引き取っただけではないか。
「それに、私にはこれ以上の新しい領土なんて、本当はいらないんです」
「……なんと?」
劉備が笑顔とともに言った言葉に、目を見開く劉表。
あろうことか、劉備はこれ以上の野心はない、とまで言い切ったのである。
「だって、私にはもう梁州があります。慕ってくれる民がいます。信じて任せられる仲間がいます。これ以上を望むのは、今の私には分不相応だって思うんです」
「………………」
劉備の笑顔、そしてその目を劉表は見る。
そこに嘘偽りがないことを感じて、その無心に再度驚かされた。
(この乱世に、まだこれほどまでに私心無く、民を想う者がおったとは……)
劉表は不意に自分の過去……野心に溢れ、無茶と無謀を繰り返した若かりし頃を
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