第五十三話 思春期F
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『お母上よ、ヴィンヴィンを本当に1人にしてよかったのか?』
「そうね、……たぶん駄目だと思うわ」
「にゃ…」
アリシアたちが去った病院の中。イーリスに簡単に事情を話し、残ったプレシアたちは待合室で座って待っていた。女性と猫と本という、異色の組み合わせ。普段の生活でも、このメンバーだけが揃うのは珍しかった。
プレシアがそこまで焦燥感にかられなかったのは、子どもたち2人のパニックっぷりに逆に冷静になってしまったことがあげられる。彼女は端末から送られるコーラルからの報告と、アルヴィンに悟られないように放ったサーチャーの反応を確認しながら、病院で連絡を待っていた。
もし子どもたちに危険があれば、すぐにでも向かえるように転移魔法と攻撃魔法の準備は怠らない。無断での魔法の使用は咎められるかもしれないが、彼女にとってみれば些細な問題である。正当防衛っていい言葉。複数の情報を同時に処理しながら、プレシアはリニスを膝の上に乗せ、ブーフと会話をしていた。
「あの子って、変なところは私にそっくりよね…。なんでも1人で抱え込もうとして、周りと距離を置いてしまって、どんどん悪い方に転がっていきそうなところなんて」
『……ふむ。それは、ヴィンヴィンを1人にしたらまずいということでは?』
「一度、落ち着かせる必要があったのは事実よ。考える時間が必要なのは、アルヴィンとアリシアの2人でしょうから」
プレシア自身も思案した表情を浮かべながら、リニスの毛を優しく撫でる。1人になりたい、と頼んできた息子に不安がなかったわけではない。だが、混乱中に無理やり聞き出すやり方は逆効果になりかねなかった。ならばまずは、アルヴィンの中で考えをまとめさせ、その後できちんと話をしようと思ったのだ。
「あの子が考えたことを尊重しながら、正していく必要があるわね。アルヴィンは、意地っ張りなところがあるから」
『何故、そのような手順を? ヴィンヴィンは、……己の大切な人に少し似ている。あの方は昔から、悩まれても、誰にも……己にも本心を打ち明けてはくれなかった。ずっと笑っていらっしゃった。ヴィンヴィンも、話してくれぬかもしれん』
アルヴィンと同じ、癖のある黒髪を持っていた主。ヴェルターブーフのマスターは、ものすごい人見知りだった。気に入った相手には人懐っこい反応を返していたが、根っこは臆病で。優しくて。人を傷つけてしまうことを、人に拒絶されることを、何よりも恐れていた。
『なぁ、ヴェルター。こないな私でも、一緒にいてくれるような人がいつか―――』
戦闘や技術者としては、周りに恐れを抱かせるほどの実力者。なのにそれ以外の側面は、残念さが際立っていた。その所為かどこか自信がなく、己の力の大きさに押しつぶされそうになっていた。それでも、ブ
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