第五十三話 思春期F
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という、少女たちに気づかれない様に念話でやり取りが行われていたらしい。ご飯をちゃんと食べる、しっかりと身体を動かす、という密約の下、色々取引があったことは完全に余談である。
「……ごめんなさい、いっぱい泣いちゃって。せっかく、笑顔を届けてくれたのに」
泣き腫らした目元を拭いながら、アリシアは申し訳なさそうに話す。そして、心配そうに服の袖を握っていた妹の手を、そっと握り返していた。そんな少女の言葉に、引き攣る筋肉を無理矢理動かしながら、エルヴィオは向き合う。顔には絶対に出さない様に頑張った。
「うーん、そうだね。アリシア……ちゃんは、どうして謝るんだい?」
「えっ、だって、私泣いちゃって…」
「泣くことは、いけないことかな。悪いこと、なのかな?」
問いかけられた言葉に、アリシアは口を閉ざす。泣いたら駄目だと思っていたが、改めて問われると違うと思ったからだ。
「私はね、君が泣いてくれて安心したよ。きっとこの子たちも」
「どうして?」
「物事には、色々な見方がある。涙を見て、悲しくなる時や、嬉しくなる時もある。笑顔を見て、嬉しくなる時や、悲しくなる時もあるんだよ」
「えっ、笑顔も?」
笑顔が人を悲しい気持ちにさせる。ずっと笑い続けていたアリシアには、彼の言葉は大きな衝撃だった。悲しい顔や怒った顔は、してはいけないのだと無意識に思っていた。
「でも、それじゃあ、私はどんな顔をすればいいの? 笑顔だけじゃ、悲しい気持ちにさせてしまうなら、どうしたら…」
「笑いたいときに笑って、怒りたいときに怒って、悲しいときに悲しんで、楽しいときに楽しんだらいい」
「……おじさん、そんなことをしたら大変なことになっちゃうよ」
「あははは、そうかもしれないね。でも、そういうものだと思うよ。大人になると、なかなか難しくなってしまうんだ。悲しくても、笑わないといけない。笑いたいのに、怒らないといけない。本当に、我慢ばっかりだ」
感情のままに生きることはできない、と本人も認めている。からかわれたようで、アリシアはムッと頬を膨らませた。言葉使いも表情も、先ほどまでの自分とは違うことに、彼女は気づいていない。
「だけどね。だからこそ、子どもの内はそれでいいんだよ。我慢なんて、大きくなったら当たり前なんだから」
陽だまりのような声が、アリシアの耳に届いた。
「嫌なことがあったら嫌だと言って、そこからどうすれば嫌なことが起こらないかを考えたらいい。怒りがあったら怒って、そこから納得できる方法を探したらいい。悲しいことがあったら悲しんで、そこから立ち上がれるように足を踏み出したらいい。1人じゃ駄目なら、みんなで。そうやって、少しずつ覚えていったらいいんだ」
「それは、でもそれって、迷惑をかけちゃうんじ
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