第五十三話 思春期F
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に、笑顔を届けたんだ」
それは、本当に些細な力。このデバイスたちは、魔導師の補助をすることができない。戦う力も、守る力も、知能もほとんどないため、話をすることもできない。ただ柔らかい身体と、温かさ。そして小さな魔法の力と、人に寄り添うことしかできない感情。それだけしか、彼らは持っていない。
「あっ……」
だが、そんなちっぽけな力が、アリシアという少女に笑顔をくれた。
「ありがとう。この子たちを心配してくれて。この子たちに、生まれた意味を持たせてくれて」
デバイスマイスターとしては、この動物たちは失敗作だろう。何もできない無力なものだろう。しかし、エルヴィオとアリシアはそうは思わなかった。彼としては、動物好きの彼女なら喜んでくれるかもしれない、と研究所から持ち出しても問題のないものをたまたま選んだだけだった。最初は、本当にそれだけの気持ちしかなかった。
自身が作り出したデバイスたちを、彼は優しく撫でる。それに気持ちよさそうにゴロゴロと鳴く動物たちを見て、不意にアリシアの目から一筋の涙がこぼれた。病室で流した涙とも、1人ぼっちで街を歩いていた時に流した涙とも違う。悲しくてこぼれたものではなかった。
エルヴィオと目が合い、涙を流していることに気づき、慌てて袖で拭こうとした。だがそれよりも早く、彼はアリシアの金の髪に恐る恐る手を置き、先ほどの動物たちのように優しく撫でてくれた。それが温かくて、どこか懐かしくて、嬉しくて、―――我慢しなくてもいいんだ、と思えた。
包み込んでくれるような温かさが、幼い少女の中にあった氷を融かし、外へと溢れ出させた。腕の中にいた小さな存在を抱きしめ、彼の白衣に強く顔を埋めた。濡れて汚れてしまった白衣に、男性は仕方がないなぁというように微笑みながら、少女の金糸をあやす様に撫で続けた。
******
『マイスター、早く復活してください』
『コ、コーラル。君には私を心配する心がないのか?』
『ありますよ。ただ、数分間同じ姿勢でいただけで、筋肉が悲鳴をあげるような軟じゃ……、軟弱な方に、さすがにいちいちフォローはできません』
『濁さず、断定された!? 私への扱いが、だんだんひどくなっていないか!』
『おや、そのようなことを言われますか。アリシア様をあやしている間、誰が周りに見えない様に結界を張ってあげたとお思いで。僕は僕なりに、一生懸命頑張ったのですよ?』
大泣きする幼女を抱きしめる、中年男性の絵。
『付け加えると、その時の映像記録はデータにバッチリと』
『ごめんなさい、本当にごめんなさい。公開は勘弁してください。そして後で、研究所にこっそり送って下さい』
『……あ、もしもし総司令官殿ですか?』
『うわぁぁあああぁぁ!!』
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