第五十三話 思春期F
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ーフのマスターは笑っていた。寂しそうに微笑み続けた。
そんな潰れそうだった主を受け入れてくれた、『あの者』が現れ、それに感謝と寂しさと、そして―――
「ブーフ?」
『―――すまん、なんでもない。その時は、どうされるのだ?』
「大丈夫よ。その時は、リニスに喝を入れてもらえばいいわ」
「うにゃん」
シュッシュッ、と猫パンチを繰り出す姉御。プレシアの笑みを見て、ブーフは甦った記録との違いを感じ、思考を止める。アルヴィンとマスターは違う。揺れる黒髪と笑顔が似ていようと、違うのだ。少なくとも、アルヴィンには弱さを受け入れてくれる人間がちゃんといる。背中を押してくれる存在がいるのだから。
次に思考を開始した時には、先ほどまで思い出していたはずの記録がわからなくなっていた。己は、何を考えていた? と曖昧になった記録中枢に疑問を持つ。まるで霞がかかったように、隠されてしまったような感覚だった。
「―――あら」
突然あがったプレシアの驚く声に、リニスとブーフは意識をそちらに向けた。
「にゃー」
「ふふ、ごめんなさいね。アルヴィンの方は、どうやら大丈夫みたいだわ」
サーチャーが映し出した光景を、プレシアは微笑ましげに見る。アルヴィンがナチュラルに奇行に走ったときはどうしようかと思ったが、それはそれ。そっと目を逸らしてあげた。さすがに盗み聞きをするつもりはなかったため、表情しかわからないが、この様子なら大丈夫だと安堵が胸に広がる。リニスとブーフにも見えるように視覚化させ、映像として見せた。
それにリニスは、小さく鼻を鳴らすと、欠伸をしてプレシアの膝の上から降りた。まったく手がかかるんだから、と肩を竦めるように身体をふるわせた。ブーフはアルヴィンとエイカの様子に、どこか既視感を感じながらも、心を占めるのは嬉しさだった。
「……行きましょうか。アルヴィンと合流して、アリシアを迎えに」
「にゃう」
『ふむ』
コーラルから届いた連絡に、プレシアは一度目を瞑り、スッと立ち上がった。それに、腰まで伸びた黒髪が宙へと流れる。迷いのない足で、彼女たちは出口へと歩みを進めた。
******
「ひっく、うぅ…」
アリシアは服の袖で涙を拭きながら、街を歩いていた。塗りつぶされたような思考と、足の裏の痛みが、彼女の足を止めようとしていた。いくら整備されている道とはいえ、裸足で走り続けることはできない。拭いても拭いても溢れてくる涙が、アリシアの気力を削っていた。
人通りがなくてよかった、とアリシアは腕で目元をさすりながら思う。誰かいれば、間違いなく心配をかけてしまっていた。でも今なら、どれだけ声を枯らして泣いても大丈夫かもしれない。そんな風に考えても、彼女は黙々と涙を
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