暁 〜小説投稿サイト〜
ノヴァの箱舟―The Ark of Nova―
#5『ファーストリべリオン』:3
[4/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
そうか、分かった……すぐ行く」

 シュートが習得している、刻印に頼らない下位魔術、《通信》だ。魔術回路を刻んだプレートを持っている者同士で通信を可能とする術で、一応レギオンメンバー全員がこのプレートを所有している。体内の魔力を流し込めば通信が可能となり、連絡を取り合うのに非常に便利なアイテムだ。緊急時のために、と全員にシュートが配布していたのだが、どうやら何か起こったらしい。

「《教会》支部の近くに、援軍が来たらしい。赤い衣の集団……まったく、手が早いな《教会》は」
「赤い衣の集団?」
「うん。たぶん第九師団だ。格闘戦のエキスパートで構成された、《教会》の上位守護組織《十字騎士団(クロスラウンズ)》の一角」

 《十字騎士団(クロスラウンズ)》の名前は、メイも知っている。《教会》の神父でありながら、戦闘を担当する集団《十字騎士》によって構成された、《教会》守護組織の最上位界。聖職者の最高位である《十五使徒(ファルクシモ)》と並んで、統治機関《七星司祭(ガァト)》を守る最強の戦士たちのはずだ。

 それが、なぜここに――――と思い、直後に納得する。

 《教会》の敷いた法制では、反逆罪は死罪。即時抹殺か、捕縛の後に処刑か。メイたちは堂々と街を破壊し、雑兵たちを殺している(その多くがリビーラもしくはククリの犯行で、メイとキングはほとんど何もしていないが)。どこからどう見ても危険極まりないテロ集団だ。恐らく『即時抹殺』の用法を取るべく、彼らを出動させたのだろう。

 だが、それで怖気づいているわけにはいかない。やっぱり《教会》のメンバーであれども、人々を攻撃するのは忍びない。だが、メイの中にはすでに理想がある。犠牲は最小限が一番だが、それでも『なくならない』と、妥協できるほどには、『この世界』のメイは現実的にできていたようだった。

「第九師団か……ククリの近接戦闘力でも一人は危険だな……救援に向かうか。……メイ、ちょっとこっち来て」
「え?う、うん」

 キングの近くに駆け寄ると、彼はおもむろにコートの下のベストと、その下のワイシャツの前ボタンを全開にした。

「ちょ、ちょっと!?」
「メイ、僕の心臓を見て」
「……心臓?」

 思わず目を覆い隠していた手を外すと、キングの細身ながらも鍛えられた体が見える。少女の様に綺麗な肌なのに、きちんと筋肉はついている。男性の裸体を見た経験など皆無に等しいメイは、それだけでこわばってしまうが、その左胸を見た瞬間、さらにこわばった。

 そこには、奇妙な模様が彫り込まれていた。十字をかたどった剣に、三匹の蛇が絡みついている模様。その内、左右の二匹には翼が方翼ずつ生え、真ん中の一体は両翼だ。魔力の輝きを纏って、淡く発光するそれは、間違いなく《刻印》である。


[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ