5話
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夢。
今、私こと「高音」が見ている映像を言い表すならそれ。
有り得ざる光景を背の低い「誰か」の視点で、逃げることすら出来ずに見せられ続ける。
強いてこの夢を言い表すなら――「悪夢」。
具体的にどんな夢かと問われれば、辺り一面夕焼けよりも鮮烈な「朱」。
夢だからか、熱を感じないが、その「朱」は紛れも無い炎。これがもし、現なら息をするのも苦しいだろう。現に、夢の中の「私」はフラフラで、視界はぼんやり、足取りも覚束ないのか奇妙に揺れている。
「私」はただ緩慢に動き続け、目を反らすことも、閉じることも赦されずに映る光景を黙って見続ける。
ふと、視界の片隅に崩れ落ちる黒い「何か」が目に映る。これを見る度に、悲鳴を上げたくなるが――「私」はそれすら赦されないらしい。
黒い「何か」は、ヒトの型をしている。分かっている、分かってはいる。それはほんの少し前まで「私」と同じように歩み続けた「ヒト」なのだから。
理不尽に身を焼かれた「ヒト」は大人の女性で、良く見ればその腕には小さな「ヒト」も見て取れる。
そんな「何か」を、永遠と造り続ける「朱」に違う色がある。
黒く、丸い――日食を想わせる「太陽」。
いや、それは違う。本能は拒絶する。「アレ」は駄目だ、視線を反らせ、近付くな――
「私」の願いを聞き入れた夢の中の「私」は、そこから遠ざかるように歩み始める。
すると、まだ息の在るヒトも居るのだろう。轟々と唸る炎の中からヒトの声が聞こえる。
だが、忘れるな。これは「悪夢」。救いなど無いのかのように無情を曝す。
声は一様に一つの願いを口にする。
――たすけて――
只の一つ、それだけだ。
些細な願いは、その悪夢に在ってはいけないのか。助けを求める声は常に「私」に降り懸かる。「私」は助けたい気持ちを抱えながら、「私」自身も助かりたい一心であの「黒い太陽」から逃げ続ける。
――ごめんなさい――
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめん
なさい……
流せぬ涙、発せぬ言葉。そうやって心の中で謝罪しながら――願いを踏みにじる。どうしようもないと分かってはいるが、それでも願いを叶えられない自身が酷く矮小な存在に思える。
縋る手を振り払い、ただ前に進む小さな「私」。
こんな小さな「私」が、力さえ残っているかわからない「私」が――そう長く身体を動かせるはずも無い。何れ力尽きて、大小様々なヒトの成れ果てとさして変わらない姿になるのは明白。
――でも、ちがう――
そう、「私」は知っている。夢の中の「私」を助ける奇跡を。
こんな醜悪な世界に在って、一際美しく見える光景を――
助け起こされた「私」を覗き込む、ボサボサの髪と髭の男性。ヨレヨレの外套は、火災の渦中にあっては無事
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