5話
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な所などなくなっている。
それでも―― それは「美しい」。
その不思議な笑顔で、この悪夢は終わる。そして――
――それは、次の「夢」の始まりなのだから。
鈍い覚醒に従って、次々と自己のパーツを認識していく。
眼球の痺れに似た怠惰感から、喉の渇きと、額と目尻と頬の湿った感触。漸く認識した左腕を額に、右手で目尻と頬を拭う。渇いた喉に、無理矢理唾液を流し込み、ゴクリと鳴らす。ここまでの行程で、思考が上手く回り始め――現の自身を全て認識する。
「はぁ……」
仰向けのまま溜息。ここは「夢」ではないと把握した。見馴れた天井と、カーテン越しの朝日は、けっして炎を纏っていない。
「久しぶりに、見ました」
誰も居ない天井に向かって、独りごちる。
数年も前は上手く意識の制御が出来ず、あの夢を度々見ていた。
うなされていたらしいし、たまに夢と現が区別付かずに半狂乱になっていたらしい。
らしい、と云うのも、自身では良くわからないことだし、周りの評価の話し。
高音も漸くそれに馴れ、悪夢も久しく見ていない。ただ、夢だと判りつつも、その「出来事」を忘れられない。
自身の過去に、あんな地獄のような出来事は無い。ただ、規模の大小はあれど、世界のどこかでは当たり前のようにソレはある。もしかしたら、今この時でさえ起こっている可能性はあるのだ。
ただ、何故ソレを見ているかは不明。
他人に話すと、真面目に取り合う気が無い者は、「前世だ」などと言う。取り合う者は、「色々な暗示」だと言う。
色々とは? 問い掛けの答えもそれぞれ、「結局は我が身可愛いさだ」とか「所詮どんなに頑張っても人を全て救えない」とか。最後の場面を指し「どんなに地獄に遭おうとも、救いはあるのだ」とも言う。
どれも正確のようで、どれも違う気がする。
ただ、一人だけ――問いに答えが無い。高音の従者たる「士郎」だけは。
尋ねた瞬間の驚きと、その後の深い思考だけを見せ付けて、肝心の答えをうやむやにした。
「夢」を見ない方法を啓示されて、それで喜んでしまった。その後になって、答えを聞いていない事に気付くとは――余程、高音には余裕が無かったのだろう。
それ以来、夢を見ずに過ごせた。時が経ち、夢の輪郭も薄らぐと、記憶の隅に追いやっていたらしい。
今更蒸し返すつもりも無かったが――何故に今になってまた夢を見たのか?
「……どうせ、答えなんて返ってきません」
天井に向かって眉間に皺寄せて、そこに居ない「誰か」を睨みつける。
薄々、高音にも感じられることが在ったが――敢えてそれを訪おうとは思わない。“そんなこと“とただ笑い流せばいい。少なくとも今は。
「そう……そうですね。“そんなこと“より――」
気怠さの滲み出る動きで
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