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化野衒は流されない。
一人目。〈恐怖と違和感〉
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ら男は当然戸惑った。
「いやね、俺も今かなり面倒な仕事を押し付けられてさ。拒否しても良かったんだけど、ウチの上司がこれまた面倒な人でね、嫌がらせの達人で給料減らすだけでなく仕事の斡旋も減らすぞとか脅しを掛けてくるし。」
 お互い大変だよね、と肩をすくめて衒は言う。
「ほんと、周りの人たちは皆が皆勝手なことばかりしやがるものだから、こちらは面倒ことを処理しなくちゃいけなくなるしやんなっちゃうよ。」
 あんまり好き勝手やっていると十六連打するぞ、と衒は付け足す。
「ああ、そうだお兄さん。そういえば、まだお兄さんの名前を聞いていなかったよね。教えてよ。因みに俺の名前は化野衒。あっくんでもてーらでもどっちでも好きな呼び方をしてくれて構わないよ。」
 そういって、そういって。
 男は何故か不安を覚えた。
 おかしい、なんだ目の前にいるコイツは。こんなにも笑わない奴だったか?そう思った。
 違和感がひしひしと男の脳内に湧き上がった。
 気が付けば衒は両腕をポケットの中に突っ込んでいた。
「ねえねえ、お兄さんの名前はなんていうの?」
「……グラン、グラン・ロータスだよ。」
「あれ?お兄さん横文字使用の名前なの?へえ、黒髪だから東洋系かと思ったら、以外にも北陸とか西洋群の出身?」
 なんだこいつはおかしい。男はそう思うが理由は分からなかった。
 正体不明、原因不明の感情が心の中から湧き出てくる。
「まあ、出身とかどこでもいいか。初対面の俺には関係ねーや。ナンパしているわけじゃないし。ていうか、男相手にナンパする勇気はないけど。興味もないし。」
 気が付けば手にいやな汗が握られているの分かった。
 しかし、決して熱くはない、寧ろ背筋には寒気がはしっている。

「うん、頃合いかな。お兄さん、ごめんね長話して。」

 あれ、コイツこんな近くにいたっけ。
 気が付けば衒は目と鼻の先に迫っていた。
 男が気付かないうちにその右手には鋭利な刃渡り二十センチ以上のナイフが握られている。
 
「じゃあね、グラン・ロータス。また、どっかで会おう。」

 男の首筋に冷たい物が当てられ、同時に熱が広がった。
 そしていつの間にか自分の視線は衒を見上げるように低くなっており、視界が朱く染まっている。


「うんうん、今日はまた一人殺せた。面白くもつまらなくも、何ともないや。」

 結局、男は衒へ抱く感情の正体が分からないままにその意識はブラックアウトした。
  
 路地裏には流血と人間の成れの果てが転がっている。

「――それにしても、お兄さんは凄いね。全くちっとも死ぬことを怖がらずにいられるなんて。」




【条件その一・仕事中の人は殺さない(ただし、意志にそぐわない労働は除く。休日も除く。)】
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