7 「『ただいま』」
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いことを考えて気を紛らわそうとするも、目の前に差し出された菖蒲風薬膳スープが急速に蒸発するわけもなく。
旧大陸産の生薬により粘性を持つ黒い液体にぷかりぷかりと浮かぶ、ぶつ切りされたネギやニラ。普通すりおろして隠し味程度に入れるだろうショウガもブロック状で浮いている。
思い返せば10年前ポッケ村で雪猿の群れ3つを相手にした後、大怪我をしたときもそうだった。その時のメニューは何だったか。もう覚えていないが、あれは、確か、そう。利き腕を負傷した凪に、「自分が食べさせるのだ」と言って聞かなかった雪路が菖蒲から受け取った飯に絶句していた記憶がある。そのとき、しどろもどろに言い訳をしながら、その料理を決して凪に見せることなくキッチンへ下げたということも。
(……そういえば、雪路が料理をするようになったのは、あの頃からだったな…)
まだ6歳の童女が一生懸命になっているのは、見ていてとてもほほえましかった。指導をしていたのは真砂さんだったか。
「…おいコラ、早く食えよ。冷めちまうだろ」
「…………なあ、菖蒲兄。料理ってさ…やっぱり……こう…見た目も、大事だと思うんだよ」
「見た目も大切だがそれより肝心なのは中身だろ、中身。大丈夫だ。ちょいと見てくれは悪ぃが、ちゃんと味見はさせた」
……させた?
南無参。凪より先に犠牲者が居たとは。また現実逃避しかけるが、眼前で仁王立ちする菖蒲はどうやら凪がコレに口をつけるまで出ていく気はさらさら無いらしい。
逃げ場はない。さあ、勇者よ。今こそが試練の時。
(……大丈夫だ。生薬だし。栄養はある。うん。昔から言うよな、“良薬は口に苦し”って。行け。行くんだ、俺。死にはしないよ。たぶん。さあ、スプーンを持て。震えるな。次、腕を上げろ。よし。あとはこれを口に持って行くだけの、簡単なお仕事です)
カチャ... (スプーンを手に取った音)
トプ... (スプーンをスープに沈めた音)
ぬちゃ...どろっ... (スプーンを上にあげた音)
ふーっ...ふーっ... (最後の悪あがきをする音)
......ぱくっ
ナギ・カームゲイル(本名:天満 凪) 享年22。 死因:味蕾への過剰な刺激による心臓発作。
Monster Hunter ―残影の竜騎士―
【完】
……物語は幕を閉じない。閉じるわけにはいかない。一体誰がこんな結末をのぞむだろう。作者ですら予想外である。彼はここで去ぬべき存在ではないのだ。
鳴かぬなら、鳴かせてみせようではないか。凪を!
これは世界の意志である。これは世界の都合である。
それからどうやって彼
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