7 「『ただいま』」
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ギェエエエエ!!!!
激痛に身をよじる毒怪竜に肉薄した凪は尾に立つ刀を捻じるように抜き、左眼の映し出す世界に花咲く白蓮に、そっと“触れた”。
それは、脈動していた。
それは、命のぬくもりだった。
それが根を張るのは、竜の生命そのものであった。
瞬時に理解した真実。凪は一片の躊躇も無く、脇腹に咲く《花》を刀で砕き割る。ギギネブラの身に咲く《花》は、残りひとつ。
―――《親花》のみ。
(これを散らせば、竜は死ぬ)
根拠無き、されど絶対の確信。
無表情に刀を手にした凪は、最後の作業を終わらせる。ばたりと糸の切れた人形のように動かなくなったネブラの背に立つ長兄を、汀は畏れと共に見上げていた。
たった3度。相手もいくらかの手傷を負っていたとはいえ、たった3度の刺突で竜を殺めた。反撃の余地もなく、圧倒的に。
何の感慨も無く竜の姿態を眺める凪。その目には達成感も、命のやり取りをした後特有の高揚感も無い。―――彼女たちは気づかない。その時、敬愛する兄の左目が紅く光を放っていたということを。
フイと顔を上げた先に、凍り付いたように動かないもう一頭を見ると、彼はおや、と首をわずかに傾けた。
まだそこに居たのか。
それは―――そう、あたかも凪こそが強者で、縄張りを侵した格下を視線だけで威圧するような。
ギギネブラを睨み付ける凪の瞳はどこまでも冷たく、ほんの十数秒前まで自分と岬を元気づけるように微笑んでいた彼と同一人物だとはとても思えない。まるで何かがのりうつったかのようだった。
ギ...ギョアアアア!!
凪が竜の背から跳び降りる。と、金縛りの解けた毒怪竜は叫ぶが早いか空へ飛び上がった。そのまま一目散に山脈の方―――町とは反対方向、凍土のフィールド外へと飛び去っていく。
追う様子を見せない凪はふっと肩の力を抜くと、膝から崩れ落ちた。
「兄さん!」
安心したら力が抜けただけ。そう伝えようにも、あまりの疲れに言葉が出ない。
次第に霞んでいく視界の中で、半泣きになりながら必死に何かを叫んでいる双子の姉弟の顔が見えた。慌てた風に駆け寄った菖蒲の冷たい手に心地よさを覚える。肌に張り付く血濡れの着物の不快さに溜息をつくも、収まらない荒い呼吸と一緒くたになって、凪自身それが溜息なのか単なる吐息であるのかの判別もつかない。
(こたつに入りたい……)
湿った布越しに体温を奪う凍土の大地に身を震わせる。
未だ違和感のある左肩をしきりに触られ、何かを話す菖蒲のバリトンボイスを聞きながら、凪の意識は次第に遠のいていった。
「こら、安静にしてろと言っただろばかちん」
「
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