暁 〜小説投稿サイト〜
打球は快音響かせて
高校2年
第三十八話 理想的?
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
になる。

「セーフ!」

クロスプレーになったが、3塁審の手は横に広がった。南学アルプスからは「惜しい」という意味の大きなため息。越戸のライトフライの間に渡辺が三塁を陥れ、二死三塁とランナーが進んだ。
渡辺はホッとした表情で土のついたユニフォームを払っているが、ベンチで今のプレーを見ていた浅海の表情はまた少し険しくなった。

(今の中継プレー、セカンドはライトの捕球姿勢が悪いと見るや、全力で近づいて中継に入ったし、またライトも最初から長い距離は投げなくて良いと踏んでいたかのようなクイックスローだった。お互いの位置関係を瞬時に判断して、最も速くボールを送れる選択をしていた。……機敏だ。かなり鍛えられている……)

140キロを投げるという事や、ホームランを連発するという事以上に凄みを感じる、南海学園の“組織力”。その片鱗を見せつけられ、自軍がチャンスを迎えているはずなのに浅海は圧倒されていた。



<4番、レフト太田君>

しかし浅海がイマイチ乗り切れていなくても、選手達、そしてアルプススタンドの応援団は先制のチャンスに湧き上がっていた。

「「「希望という夢を乗せ♪彼方へと飛ばせ♪
この思い届かせて♪高らかにホームラン♪」」」

太田の応援歌「メロス」に三龍アルプスが揺れ、太田本人もそのメロディにノる。ブンブンと素振りを繰り返し、右打席に入った。

(見た感じ、そんなに打ちにくそでもないな。チャンスやし、どんどん行こ。)

打つ気満々。この甲子園を賭けた一戦に、太田も気合いが入っていた。
初球のスライダーを見送ってからの2球目。
懐に入ってきたストレートを、太田は強く叩いた。

キーン!

鋭い打球が横っ飛びしたサードの脇を抜け、三遊間を破っていく。渡辺が悠々と先制のホームに帰り、4番のタイムリーヒットにアルプススタンドも大きく沸き返る。そのアルプスに向かって、一塁ベース上で太田が大きく拳を突き上げた。

(……とりあえず、点は入った。やはり、地力ではウチが優っている……よな?)

ベンチに帰ってきた渡辺とハイタッチを交わし、殊勲の太田を拍手で讃える浅海だが、まだ少し、その胸の中にはどこか棘が刺さっているようだった。
しかし、浅海のそんな釈然としない様子とは裏腹に、州大会準々決勝は理想的な形で立ち上がった。










[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ