参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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「叉羅抹と申します」
そう、目を覚ました女は名乗った。
「抹、とお呼び下さい」
艶めく髪をさらりと一筋頬に流して抹は濡れたような瞳を瞬かせた。面差しは窶れ暗い影を落としては居るが、それがまた薄幸の美人という風情を醸し出している。
・・・なんというか。
どうしてこう、あたしのまわりってどいつもこいつも顔が良いんでしょうか。惟伎高然り抹然り。もう、やるせないわ!
なーんていう僻みは横に置いておいて、あたしはするりと惟伎高を見上げた。
ぐうぐう眠っていた惟伎高を押しのけて引きずってきた抹を寝かせたのだが、体力の限界がきていたあたしがうっかりふらつき倒れ様、惟伎高の鳩尾に肘から倒れ込んだから、いや何と言うか大惨事だった。惟伎高は未だにお腹のあたりを押さえている。いや、あの・・・本当に・・・スミマセン・・・。わざとじゃ、ないのよ。うん。
おかげで今は抹とあたしが仲良く枕を並べて横になっていた。惟伎高もそこに加わらなかったのは、男の矜持とでも言うべきか。
「座主の庵儒と申します」
惟伎高はぴんと背筋を張り阿闍梨もかくやあらんとばかりに厳かに言った。袈裟を纏っている訳でもないし、肩下まである髪もそのままでぱっと見は浪人のような外見なのだが、不思議と頭を垂れそうになる威厳のようなものがあった。
でもちょっと何よそれは!いつものダラッとした惟伎高はどこ行ったのよ!訛りも綺麗に姿を消している。
そんであんた座主じゃないでしょー!?この前座主は別に居るって言ってたわよね!?
「庵儒様・・・」
あたしが呆れ果てて居る一方、隣の抹は完璧に毒されて、感に堪えないように言葉を震わせた。そしてほろほろと涙を落とす。その様は、柳に雫が伝うような静かな美しさがあった。美人は泣き顔も絵になる。
「お願いが御座います」
「聞きましょう」
起き上がり唇を震わせながら両手をついた抹に、心得たとばかりに惟伎高が頷く。そうして抹は言った。
「私を、僧にして頂きたいのです」
「わかりました」
えっ、そんなアッサリ!
あたしは驚いて惟伎高を見た。抹が、尼じゃなく僧って言ったのは混乱しているからだろうけど、もしくは尼僧って言いたかったのかもしれないけど、見たところ二十歳ぐらいのこんな美人が、枯れ果てた女の掃き溜めみたいな尼になろうって言うのよ!?世の男にとっては損失もいいところじゃないの!ここは断然、止
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