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戦国御伽草子
参ノ巻
死んでたまるかぁ!

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「ふぅん?まぁ、いいんじゃないの?逃げたってさ」



 あたしは努めて、なんでもないように言った。



「抹の人生なんだから、自分の好きに生きなよ。他人は二の次で良いんだよ。不安なら言ってあげよう。あんたは、狂ってない。大丈夫よ、抹。大丈夫」



 そしてあたしはにいと笑った。みてみて、抹。あたしだって今笑ってる。本当の意味で、あたしには抹の苦しみはわかんない。抹にも、あたしの苦しみはわからない。別の人間として生きている以上、それは仕方の無いことかもしれない。でも、あたしは何があったって、絶対に負けない。ひとりになったって、笑って今日を生きてるよ。あたしは抹みたいに綺麗じゃないけど、あたしのことを好きになってくれる人が居て、もう二度と会えないけれど、それでも幸せに生きて居てくれるかな、って思えればあたしも幸せ。もしかしたら心の奥底にある本音はそんな綺麗事だけじゃないのかな。わかんないや。でも大事な人が幸せだと思うだけで、あたしも幸せって言うのは絶対に間違いじゃない。それって、きっと、すごいことだよね。そんなに大事に思える人が何人もいるから、あたしの人生はもう大成功もいいとこよ。えへ。



 だから泣かない。自分を哀れむ涙は流さない。決して。



「尼君様・・・!」



 抹は感情を吐き出すかのように泣き出した。声を堪えながら大きく肩を震わせてしゃくりあげる様が痛々しい。思わずあたしは抹の片手を両手で握りしめた。抹はもう片手で顔の半分を覆いながら泣いている。どれほど辛いことがあったのか・・・。



 それがどれほどの慰めになるかわからないけれど、傍に人が居て、その体温を感じるって大事なことなんじゃないかと思うのだ。ひとりじゃないよ、と言葉だけじゃなく伝えるのは。抹は儚げな容姿と裏腹に、背が高いからか体も意外と大きい。抱きしめようとあたしが腕をまわしても届かないかもしれない。



 もしかしたら、抹は、こんな風に寄り添ってくれる人もなく、ひとりで泣いていたのかもしれない。ずっと。こんな美人だものなぁ・・・女達の嫉妬もすごかったのかも。



 あたしは膝立ちになって、泣いている抹の頭を優しく抱えた。



 ちいさい由良(ゆら)みたいに、その体を抱きしめてあげることはできないけれど・・・。そうだ、抹は由良みたいなのだ。思い起こすも大事な由良が憎き三浦にフラれた時にも、あたしはこうして由良を抱きしめていた。思いっきり泣きなさいと。



 けれど、あたしが抹を抱きしめた瞬間、それとわかるほどに抹の体ががきんと固まった。



 あら?と、思った時にはもう、あたしは抹に突き飛ばされていた。思いっきし、畳に腰をぶつける。い、いったぁ〜。



「あん
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