参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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始めた。
ええー何で!?予想外のところで笑うし褒めれば泣く、この子のツボがわかんない!
「・・・尼君様・・・」
「え、なに、なに、どうしたの!?あたしなにか言ったかなぁ、ごめんねごめんね!」
「ちが、違うのです・・・私・・・嬉しくて・・・」
う・・・嬉し泣きだったんかーい!紛らわしいなぁ、もう!
「尼君様はお優しいお方。先ほどは笑ってしまい失礼致しました。とてもお若い尼君様が、私に若い身空で出家するなと説かれているのが矛と盾のようで少し微笑ましかったものですから」
抹は涙を拭って微笑んだ。
いや、まぁあたしもまだ尼じゃないんですけどね・・・。って言う事情は話すと長くなるしやめておこう。
「あんたいくつ?見たところ二十歳ぐらいだけど」
「はい。正に二十歳で御座います。尼君様はおいくつですか?」
「あたしは十七」
「それは・・・」
抹は何を勘違いしたのか、絶句しまた滲ませた涙を、そっと袖で押さえている。
うーん。まぁあたしのことより、抹のことよ。
叉羅抹。抹という名。
他人の名前をあたしがどうこう言えたタチじゃないけれど、「抹」と言う字は、普通人名には使用しない。
抹とは、消して無くすとか言う意味で、あんまりいいものじゃないから。
同じまつなら、松とすればいいものを、わざわざ抹とつける・・・。
なんだか、抹の出家の原因は、そういうとこにあるような気がしなくもない。
あたしはついと庭に目を移して、眩しいほど咲き誇る桜を眺めた。
目覚める前、佐々家で見ていたのは一面の雪だった。凍てつくほど寒い、夜の月だった。
眠っていていきなり季節が変わっていたからというのもあるかもしれないけれど、暖かい春の訪れにあたしだけ冬の中取り残されている気がする。
「季節の移り変わりってはやいわね、抹?花の色はうつりにけりないたずらに、ってところかしら」
あたしが何気なくそう言うと、抹は空を見詰めたまま、ぽつりと言った。
「・・・私は、毎日、毎日、日が経つのがとても遅うございました。花の色はいくら待てども赤は赤、白は白だったのでございます」
「・・・だから、出家したいの?」
「はい。逃げていることは、わかっております。しかしもう、変わらぬ花を眺めていることにも気が狂いそうでした。いえ、もう狂っているのかもしれません。私は・・・」
抹の瞳から、一筋涙が流れた。
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