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万華鏡
第七十二話 三学期その四

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「努力してね」
「だからですか」
「そう、私は凄い人になりたいけれど」
「まだまだなんですね」
「まあなれないわね」
 そうは、というのだ。
「正直言ってね」
「なれないですか」
「茉莉也ちゃんのお母さんも凄いし」
 それにだった。
「村山さんもね」
「だからこそ、ですね」
 ここで里香が部長に問うた。
「目標とされてるんですか」
「目標は高くないとね」
 部長も里香に笑って答える。
「目標にならないでしょ」
「それで、なんですね」
「あえて凄い人を目指しているのよ」
「そういうことですね」
「私のお手本っていうかね」
 その二人は、というのだ。
「目指している、遥か彼方の人よ」
「村山さんは本当に凄かったんですよね」
 美優もここでこう言う。
「もういつも全力で投げていて」
「しかも正々堂々とね」
「阪神への、野球への愛情も凄くて」
「だから私も尊敬してるのよ」
 部長にしても、というのだ。
「ああなりたいから」
「そうなんですね」
「まあ実はね」
「実は?」
「こういう人間にはなりたくない人っているでしょ」
 話題は百八十度変わったかに見えたがそうではなかった、部長がここで言うことは、既に部室の中に入っていてジャージに着替えている。
「反面教師がね」
「ああはなるまいって人ですね」
「そういう人がですね」
「いるでしょ、そういう人」
「はい、います」
「誰とは言わないですけれど」
 当然部長ではない、部長は誰かに反面教師にされる程人として悪くはない。だがそれでも五人もそうした者はいた。
「元総理ですね」
「あの原発爆発させた」
「ずっと総理大臣の椅子に居座ってた」
「あの人ですね」
「私もあいつは最低だと思うわ」
 部長はその元総理をあえて『あいつ』呼ばわりをして言ってみせた。
「人間としてね」
「ですよね、本当に」
「総理大臣としてだけでなく」
「人間としてもですね」
「最低ですよね」
「あの人は」
「正真正銘の最低人間よ」
 部長はこうまで言った、その怒鳴り散らすことだけが取り柄で己のことしか考えず責任転嫁と言い逃れに終始している下劣漢について。
「ああいう人間にはなりたくないでしょ、あんた達も」
「はい、絶対に」
「ああした人には」
「あとは」
 ここでだ、五人はざっとこうした種類の人間をあげていった。
「子供虐待する親とか」
「浮気ばかりする人とか」
「お酒やギャンブルに溺れる人」
「そうした人にもなりたくないです」
「暴力振るう人とか」
「はっきり言うけれど自分の子供やペットに暴力振るう人は屑だから」
 部長はきっぱりと言い切った、そうした輩については。
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