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万華鏡
第七十二話 三学期その三
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「だから目指してるのよ」
「つまりその人がですか」
「部長さんの目標であり尊敬する人なんですね」
「だからですか」
「部長さんも、なんですね」
「なるわよ、そうした大人に」
 にやりと笑っての言葉だった、開けられた部室の扉から差し込む光を背に受けて右手を腰の横に当ててポーズも取っている。
「是非ね」
「何か世の中凄い人いますね」
「そうした人もおられるんですか」
「部長さんが目標とされる様な」
「そんな凄い人が」
「ちなみに尊敬する男の人は村山実さんよ」
 阪神の大投手だ、ザトペック投法という己の全身全霊を注ぎ込んで投げ抜く気迫の投球で知られている。
「ああいう人を旦那様にしたいわね」
「ああ、村山さん」
「あの人ですね」
 五人も村山実の名前を聞いて応える。
「凄かったらしいですね、何でも」
「長嶋さんを終生のライバルに定めて」
「常に全力で投げていたんでしたね」
「それも正々堂々と」
「男は顔じゃないの、生き様よ」
 それで価値が決まるというのだ、漢の。
「まあ村山さん顔もそこそこだったけれどね」
「少なくとも不細工じゃなかったですね」
「格好いい感じですよね」
 村山実の顔は写真にも残っている、映像にもだ。現役時代から監督時代、晩年に至るまでその人相は変わっていない。
 それで五人も彼の顔を見たことがある、それで言うのだ。
「精悍ですよね」
「いいお顔ですよね」
「あの人は本当に生き様なのよ」
 それが村山の魅力だったというのだ。
「必死に投げて必死に野球をして必死に生きていた人なのよ」
「それでそういう人をですね」
「部長さんは尊敬されているんですね」
「ああいう人をお婿さんにするのよ」
 このことは自分にだけでなく五人にもかけた言葉だ。
「いいわね、ああいう人をこそなのよ」
「ううん、あんな人滅多にいないですけれど」
「それでもですか」
「ああいう人をですか」
「お婿さんにするべきですか」
「私はそのつもりよ」
 また言う部長だった。
「ああした人を尊敬してね」
「そして結婚してですか」
「一緒に生きていたいんですね」
「ええ、そうよ」
 その通りだというのだ。
「そう思ってるわ」
「何か部長さんも」
 景子は部長の話をここまで聞いて唸る様にして述べた。
「凄いですね」
「凄くなりたいけれどまだ凄くないわよ」
「いえ、何かと」
 既に凄くなっているというのだ、景子から見れば。
「そう思います」
「大袈裟ね、褒めたって何も出ないわよ」
「何か出て欲しいとは思ってないです」
「そうなの」
「はい、いや目指すもの、尊敬する人がおられて」
「そうした人と結婚したいっていうことが」
「人としてもっとよくなりたいんですよね」
 要する
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