XY
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、好ましい香りだった。
「どうかされましたか?」
「いや別に」
普通の女ならばこのまま口説いて褥と洒落込んでいただろう。
「っと……駅前に着いたがどうする?」
中身のない話をしていると何時の間にか駅前。
行きたい場所があるかリクエストを聴いてみたのだが……
何故だか分からないがエリザベスはエスカレーターに向かって走り出してしまった。
「行く手に刃向かい、流れてくる階段……これが"エスカレーター"……」
何故だか昇りエスカレーターを昇って昇りエスカレーターを下り始めた。
まるで意味が分からない行為に目を丸くする俺を余所にエリザベスはトンチキなことを言っている。
「シンプルでありながら、見た目以上の消耗を強いられる試練……!」
『よいこの皆さん。 エスカレーターの逆乗りは、大変危険です』
良い歳をした大人がこんなことをするとは思ってもいないのだろう。
エリザベスに向けられた注意アナウンスを聞いて何とも言えない気持ちになってしまう。
「そして……これは!? 裏瀬様、足元にお気を付けください」
「は?」
エスカレーターから降りて来た彼女が一目散に向かったのは……工事中のマンホール?
看板と柵で遮られたそこにエリザベスは何を見い出したのか。
「この先に"落とし穴"がございます」
「んなもんねーよ。お前の目は節穴か?」
「落とし穴だけに、でございますか?」
「いう別にそんな意図で言ったわけじゃねえからドヤ顔やめろ」
そもそも落とし穴なんてものが公共の場にあるわけがない。
そんな俺の呆れに応えるようにエリザベスはこれまたトンチキな持論を展開する。
「柵で囲まれた、この中心にでございます。目を引く看板で囲んだうえ、"立ち入り禁止"の文字」
「それが?」
「人は往々に、禁じられたものほど触れてみたくなる……
落とし穴は隠すものという常識を逆手に取った、高度なトラップでございます……」
いや、それはただの警告であってそんな意図はないだろう。
禁じられたものにほどと言うのは分からないでもない。
黄泉平坂やオルフェウスの振り向いてはいけないと言う言葉然り、人は禁忌に弱いが……
「いや、そもそも誰を引っ掛けるんだよ」
「罪なき民草を狙う悪漢ではないでしょうか?」
「……お前がそう思うんならそうなんだろうよ」
一々訂正するのも面倒だ。世間一般の常識に疎い相手をするのは結構疲れる。
「流れる足場に加えて、心理トラップを組み合わせた落とし穴。街の治安を守るとは、かくも大変なことなのでございますね」
「それでも日本はマシだと思うがねえ」
と言うよりエスカレーターもマンホールも治安維持のためのものではない。
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