高校2年
第三十七話
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ったり、ヒットを打たなくても点を取る、そんな野球をしている。神谷監督が商学館を率いていた頃の野球だ。」
浅海はベッドに腰かけ、風呂上がりの髪をタオルでしきりに拭いていた。濡れた肌には張りがあり、モチモチとした質感を感じさせている。乙黒はそんな色っぽい浅海から意識的に目を逸らし、資料のページをめくる。
「投手は……おお、5人もおるんか。ほんで、結構イニング数に差がないな。満遍なく投げさしよるんやの。ほんで、満遍なく点を取られよる。」
「完投は一つもない。状況を見ながら継投して、投手陣トータルでの失点を2〜3点に抑えてきたんだ。5人がそれぞれ別の持ち味を生かして、束になって相手打線に挑みかかる……1人1人が大したことがなくても、厄介かもしれんな」
浅海が言うと、乙黒は直接見た南海学園の初戦を思い返す。南海学園の先発投手は背番号10のスリークォーターで、インコースを度々突いていた。2番手は背番号17の左投手で、これがべらぼうに球が遅く、その上投球のほとんどが変化球だった。最後を締めたのは背番号1のエース。オーソドックスな投げ方で、ストレートを武器にしているようだが、球速はせいぜい130キロちょっと。しかしそれでも、球の遅い2番手の後に投げたので、相手打線は振り遅れていた。
確かに、意図的に相手の目先を変えるようなボールの持ち主同士でつないでいる。3人とも大したピッチャーではなかったが、しかし四死球は少なく、相手打線が狙いを絞りきらない内に次の投手にリレーしていた。
「……とりわけ良い打者が居る訳でも、凄い投手が居る訳でもない。しかし、軸が不在でも、脇役が束になってかかる事で結果を出している。不気味なチームだな……」
浅海は壁に背中を預け、天井を見上げてつぶやいた。もうすっかり下っ端扱いに慣れてしまった乙黒であるが、この浅海の様子には少し頼りなさを感じた。いつものような、毅然とした態度が今は見られない。
「浅海、お前ビビッとん?海洋相手にした時でも、もうちょい余裕あったんに。」
浅海は、乙黒の方をゆっくりと向いて笑みを見せた。乙黒はハッとする。これまで一度も見た事の無いような、くたびれた笑みがそこにあった。颯爽と、毅然としたいつもの浅海ではなかった。
「……やっぱり、緊張するよ。後一つで、甲子園なんだもの。みんな期待するし、ここまで来て負けるなんて、みんな嫌だろう。私も嫌だ。勝ちたい……何とか、勝ちたい……」
噛み締めるように浅海は言う。
乙黒は何も言えなかった。
そして言うまでもない。負けたくないし、勝ちたい。一生に一度しかないかもしれない、このチャンス。逃すわけには、いかない。
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「チーム打率は3割3分ちょっと、ツーベースがまぁまぁ多いけん、長打
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