第百六十一話 紀伊へその三
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「あの様なことはな」
「いえ、それは」
「それはというと」
「大したことではありませぬ」
「己の禄の半分を出すことがか」
「それがしは食えるだけあれば充分です」
それだけの禄があればというのだ。
「ですからよいか」
「はい、構いませぬ」
常に己の禄の半分を出してもだというのだ。
「全く」
「欲がないのう」
「欲はありますが」
森の今の言葉は否定したのだった。
「しかしそれは己の欲ではありませぬ」
「ではどうした欲じゃ」
「天下泰平です」
それだというのだ。
「それがそれがしの欲であります」
「天下が収まることがか」
「乱れた天下が収まれば皆笑顔になります」
石田もまた刀を手にしている、それで敵と戦いつつ言うのだ。
「それ故に」
「天下泰平がか」
「それがしの欲であります」
「ではその欲を適える為にじゃな」
「今こうしております」
戦っているというのだ、見れば剣の腕は然程ではないが相手の動きを見て冷静に動き相手を一人ずつ倒している。
「そして政も」
「全ては天下の為か」
「収まった天下がそれからも泰平である為に」
その泰平は一瞬ではならぬというのだ。
「それがしは働かせてもらいます」
「成程な、御主の欲は強いのう」
「自覚しております」
「しかしよい欲じゃ」
森は石田のその欲を笑顔で認めた。
「その欲ならよい」
「そう仰って頂けますか」
「うむ、ではわしもじゃ」
「天下の為、そしてですな」
「殿の為にな」
戦おうというのだ、そしてだった。
石田にだ、森はさらに言った。
「御主も殿にじゃな」
「はい、忠義も感じております」
「御主はそれも強いと見るが」
「いえ、それがしはまだまだです」
忠義についてはだ、石田はこう言うのだった。
「勝三殿には及びませぬ」
「そう言うか」
「左様であります」
戦いつつ言う。
「忠義は」
「いや、御主の忠義も見事じゃ」
その忠義者の森が石田に告げる根拠はというと。
「御主は殿に厳しい諫言もするのう」
「はい」
「それも遠慮なくな」
「それが殿の、そして織田家の御為になりますので」
だからだとだ、石田も答える。
「そうさせてもらっています」
「それは容易には出来ぬ」
「諫言はですか」
「そうじゃ、忠義があるからこそだ」
信長、そして織田家への強いそれがあるからだというのだ。
「ましてや殿は怒られると相当じゃからな」
「殿が怒られようとです」
その勘気の強い信長であってもだというのだ。
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