第26局
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ルに指名された岸本は答えた。
「…そこでツケても、白に捌かれるだけのように思う…。ただ、それで白を小さく生かしている間に、中央に大きな黒の勢力ができないか?」
「…なるほどね。じゃあ、実際にやってみよう。まず、右からツケようか。オレは下にハネるな。次の手は?」
そうしてヒカルは、皆の声を聞きながら手を進めていく。すると、白が下で小さく生きたうえに、中央の白石ともつながり、右辺の黒が孤立した。
「こうなると、この黒が孤立したな。せっかくの厚みが、全く生きてないうえに、左辺もスカスカだ。手を戻して、左にツケてみようか」
結局、左につけたあとの展開も、先ほどと似たようなものになった。どう見ても実戦よりも悪い。段々と、部員達の声から力がなくなっていく。
どんな部員達の意見に対しても、明確によどみなく応手を答えていくヒカル。
ヒカルの力をじわじわと皆が実感し始めていた。
「つまり、あの時の黒、塔矢はしっかり対応していたってことだな。…じゃ、実戦に戻して続けるぞ。次はこうだな…」
その後、幾つもの質問が飛び出すが、黒白どの手に対する質問でも、ヒカルはその質問のままに手を進めて、最後はすべて粉砕していった。
岸本や尹の手に対しても、ヒカルは瞬時に応答し、結果盤面は実戦よりも悪くなっていく。
「このいかにも一見、取ってくれって白の切りは、結局は捨石なのさ。取りに来てくれればこうして…、これで両にらみ。黒は上下のどちらかが死ぬ」
「この黒の愚形は仕方ないのさ。確かに、こう構えるほうが形はいいけど、手が進むと…。…ここが攻め合いになって、黒は手が足りない」
どんなに乱暴な手に対しても、ヒカルは的確に対応していく。
当初あったヒカルへの侮りの念は、ほとんど影を潜めていた。
ここまで細かく解説をされると、さすがに皆理解し始めていた。
皆の前に立つこの1年、進藤ヒカルは、囲碁部の誰よりもはるかに強い、と。
自然と質問の言葉は丁寧なものとなり、ヒカルに対する不快感は消えていった。元々囲碁好きな人間の集まりなのだ。自分よりはるかに強いと分かれば、好む好まざるを問わず、自然と尊敬の念も沸いてくるものだ。
「じゃあ、あの時の切りに対して、伸びていたらどうなんです?」
「そこ、手を抜いたらまずいですか?」
尹もまた、感動していた。
−まさに、プロレベルの解説だな、これは。1冊の本にできるくらいじゃないか。塔矢君との対局で、力の程は理解しているつもりだったが、まさかこれほどまでとは…。
あかりと佐為もまた、大勢の前で毅然としたヒカルの態度に感じ入っていた。
−うわー、ヒカルなんかすごいかも…。囲碁のプロって、やっぱりすごいんだぁ。
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