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とある鎮守府の日常
手の届かない怪火
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響いた。










 
「近づいても近づいても、決して近づけない。本当はそんなものないのに、そう見えてしまう蜃気楼。だから、勘違いをしてしまう。そういうものでしょう不知火は。知っていたはずなんです提督(あなた)は」

 不知火は目の前のそれを見ていた。
 既に命を失い、それとしかいえなくなった物体を。
 世の中にはどうにもならないものもある。一度死んだ仲間が、自らの怠慢や驕りで死なせた相手が、誠心誠意謝れば帰ってきてくれると信じるなど、馬鹿にした話でしかない。

 何を勘違いしていたのだと。
 幻を見て失ったものが戻ってくるとでも思っていたのかと。 
 忘れてしまったのは私ではなくあなただ。
 不知火はそう告げる。

 真っ当だと思える努力をしているから、真っ当だと思える想いがあるから。
 だから、報われるはずだ。相手もわかってくれるはずだ。
 そんな甘ったれた自分勝手な考えは子供の頃にしか通じない戯言だと大人になれば理解するはずだ。

 口から上を吹き飛ばされた提督はそれを理解していなかった。
 いや、理解はしていたのかもしれない。けれど目の前に現れた不知火を見て、微かな可能性を信じてしまったのだろう。
 追えば追うほど遠ざかる不知火に手を伸ばしてしまった。

 無駄な行為。だがそれを言えば不知火も同じだ。
 何かを聞いたとしても結果は変わらないと知っていたのに、無駄な時間を過ごすことを選んだ。
 成し遂げられる確信があったとしても任務に支障が出る可能性を選んだ。

 不知火は自分の姿を見下ろす。
 返り血に濡れ服はドス黒く染まっている。吹き飛んだ脳症が所々にこびり付いていた。血と肉の混じったなま臭く錆臭い臭いが鼻に漂う。
 ふと、任務は果たしたのに、不知火は何かを忘れているような気がしていた。
 やり残したことが、あったような気がした。

 先ほどの砲撃音は十分に響いた。直ぐにでもこの部屋には不知火の敵である、提督の仲間である艦娘達が来るだろう。
 そう思い、疑問をそのままに不知火は部屋を後にするべく踵を返す。

「――――」

 その途中、壁に立てかけられた鏡を見て不知火は止まった。
 そこには全身血まみれの不知火が写っていた。青白い肌。蒼い鬼火の様な光を浮かべる瞳。光沢の薄い黒い装甲。

 紛れもない、深海棲艦である駆逐艦不知火が写っていた。

――ああ、そう言えば

 それを見て不知火は思い出す。
 己に嘗て、全う出来なかった任務があることを。
 最後まで全うすることが出来ぬまま死んでしまった過去を。

「不知火は任務を全うします」

 不知火は腕を上げ自らの顳かみに砲口を当てる。
 床に倒れた嘗ての上司を、提督を見つめ、
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