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とある鎮守府の日常
手の届かない怪火
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と回りくどいことを。聞きたいことがあれば聞けばいいものを」
「その改造というのは、取り返しのつかないものなのかと思ってさ」

 そうして提督は、その言葉を吐き出す。

「――戻ってくることは無理なのか」

 堰を切ったように提督の口からは言葉が漏れていった。

「敵意があるといってもこうして話せるんだ。抑えるのが無理だってわけじゃないんだろう。いずれ薄れるかもしれないじゃないか。不知火だって、初めて会った時は似たようなものだったじゃないか」

 そう言って提督は語った。
 不知火と会う前のことを、会ったときのことを、会ってからのこと。
 友好的でなかった不知火との思い出を、何度となく出撃した事。
 水平線に見える不知火を意味もなく追った事。
 頭を撫でて手を払われたこと、回数を重ねるごとに払われなくなったこと。
 不知火が沈んだ時何を思ったのか、それから何があったのか。どんな気持ちだったのか。どんな思いを抱いたのか。
 どれほど自分を戒めたか。

 気づけば提督の口からは謝罪の言葉が続いていた。
 あの時、大破していたのに進撃を通達してしまったこと。大丈夫だろうと慢心してしまったこと。もう二度とそんなことはしないと。
 あれ以来、誰一人轟沈させてなどいない。そのたった一人に、謝りたかった。
 海に浮かぶ不知火の光を何度となく見つめ、もう一度会えることを願ったと。

 途中から涙を流し、それでもそれに気づかぬように、言葉が荒れぬように提督は言葉をただひたすらに続けた。

「手は尽くす。他の皆にも説明する、してみせる。少しの違いなど暫くすれば誰も気にしなくなるさ。だから、頼む……」

 それでも堪え切れなかったのだろう。涙を隠すためか、不知火の顔を直視出来なくなったのか。祈るように机の上で組んだ手で俯けた顔の額を当てる。
 最後のその言葉は、少し間が空き、僅かに震えた声で伝えられた。

「戻ってきてくれ不知火」

 結局、それだけなのだ。
 その一言が全て。
 それを言うためだけに、あえて提督は危険を冒した。

 ひと呼吸程の空白。そしてコツンと、提督の額に硬いものが触れた。
 高角砲がその砲口を晒し、中が覗けるほどに近く、提督に突きつけられていた。

「世の中にはどうしようもない事もあります。一度死んだ私は、やはり妖怪みたいなモノなのでしょう」

 理解できぬもの。その恐怖から逃れるため、人は名を付け妖怪が生まれた。
 けれどそれは精神的な逃げ。本質的な理解からは遠い。
 そう不知火は告げる。淡々と、最初と変わらぬ声色で。
 告げて、砲口を提督に向け、引き金に指をかける。
 
「敵は沈める。不知火は、最後まで任務を全うします」


 そうして、一発の砲撃音が鳴り
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