第七十話 大晦日その五
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「覚悟はいいわね」
「下に余計に着てるわよ」
「カイロも持ってるし」
「特に腰から下は温かくしてるぜ」
「もう万全よ」
「ならいいわ。冷えるからね」
新年は冷える、しかも今は真夜中だ。そうでなくてはというのだ。
「徹底的にしないとね」
「やっぱりこれは欠かせないわよね」
里香があるものを出してきた、それこそ使い捨てカイロだった。
「下にはシャツを重ね着してね」
「そうそう、タイツもはいてさ」
美優も笑って言う。
「重ねて」
「靴下も足袋の下にはいてね」
「完全装備でいないとな」
「神戸の冬は特に厳しいからね」
琴乃も言う、当然琴乃も巫女の服の下は完全装備だ。
「だからね」
「私も今はね」
秋田生まれの彩夏もだった。
「結構着てるわよ」
「とにかく風邪はひかないでね」
景子は四人にこのことを念押しした。
「いいわね」
「ええ、そうよね」
「自分が辛くなるからね」
「冷えない様にして」
「風邪には気をつけて」
「甘酒用意しているから」
身体を温める為のものであることは言うまでもない。
「あと善哉もあるわよ」
「善哉もなの」
「それもあるのね」
「海軍譲りよ」
帝国海軍のことである。
「それもあるから」
「何で海軍なの?」
里香はここで海軍の名前が出て来たことに疑問を感じて景子に問うた。
「ここで」
「海軍は善哉だったのよ」
「あれっ、そうだったの」
「昔は甘いものもあまりなくてね」
「善哉位しかなかったの」
「それで海軍もね」
善哉をよく食べていたというのだ。
「他には羊羹もよ」
「それもなの」
「大和の中には羊羹とかラムネを作る機械もあったわよ」
「へえ、そうなの」
「というかあんたの学校海軍と縁が深かったでしょ」
「ええ、そうだけれど」
景子もこのことは知っている、だが軍事には興味がないのであやふやな返事だった。
「それはね」
「お母さんもよ。だからね」
「お母さん知ってたの、そのこと」
「そうよ、海軍のことはね」
「大和のこともなの」
「ええ、知ってたわ」
大和の羊羹やラムネのこともというのだ。
「そのこともね」
「そうだったのね」
「面白いでしょ、海軍は善哉って」
「ううん、夫婦善哉じゃないのね」
「夫婦善哉は大阪でしょ」
大阪の難波法善寺横丁である。
「また違うわよ」
「そうよね、善哉は善哉でも」
「昔は本当に甘いものが少なかったから」
戦前の話だ、最早遥かな歴史の話である。
「善哉とかしなかくて」
「海軍でも食べてたのね」
「そういうことよ。それで冬に善哉は」
「温まるわね、美味しいだけじゃなくて」
「そう、だからね」
それでだとだ、母の娘への言葉は続く。
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