第七十話 大晦日その四
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「違うのよ」
「そうなの」
「お腹には脂肪がついてきて」
「すらっとしてない?今も」
「服を脱いだら違うのよ」
これがというのだ。
「もうね。お尻も垂れて」
「スタイルいいと思うけれど」
「矯正してるのよ」
下着でというのだ、話はさらにシビアになる。
「髪だって染めてて」
「黒くなの」
「髪は長くしてるでしょ」
景子も同じだ、実は景子は母の髪型を真似ているのだ。それで今黒の見事なロングヘアにしているのである。
「実は白いものも混ざってるのよ」
「そうだったの」
「これでも苦労してるのよ、お母さんも」
「大変なのね」
「おばさんは大変なのよ」
またおばさんという言葉を出した母だった。
「わかったわね、二十五からよ」
「そこからが大変なのね」
「お肌も水を弾かなくなって」
年齢を重ねるとそうなる、嫌でも。
「あちこちが痛くなったりもするから」
「神経痛なの」
「特に腰がね」
「ううん、腰ね」
「肩もね」
「肩凝ってるの」
「少ししたら凝るのよ」
今は大丈夫でも、というのだ。
「目もちょっと夜ふかししたらしょぼしょぼとなって」
「何かおばあさんみたいじゃない」
「おばあさん予備軍よ、おばさんは」
夢も希望もない言葉だった、実に。
「そうしたことも覚悟しておくのよ」
「十代のうちはよくてもなの」
「絶谷十代の頃が懐かしくなるから」
実に切実な十代の実の娘への言葉だった。
「覚悟しておきなさい」
「覚悟なのね」
「そう、覚悟よ」
まさにそうなるというのだ、歳を経るということは。
「いいわね」
「その歳を取るのね、今から」
「やれやれよ」
溜息と共に言った母だった。
「全く以てね」
「何か新年を迎えたくなくなったわ」
「それでも誰もが絶対に歳は取るから」
「そこは諦めてなのね」
「結局諦めるしかないのよ」
人は絶対に歳を取っていく、生きているならば。だからこのことは諦めてそのうえでだというのである。
「じゃあいいわね」
「新年の用意ね」
「そう、琴乃ちゃん達も頑張ってね」
今度は琴乃達娘の友達にも声をかけた。
「宜しくね」
「はい、わかりました」
「そうさせてもらいます」
四人は景子の母の言葉に笑顔で応えた、そうしてだった。
五人は風呂で酒をじっくりと抜いてから十一時半になり服を着替えた。上は白の着物、下は赤い袴の巫女の姿に。
そのうえでだ、景子は自分と同じく巫女姿になった四人に言った。
「じゃあいいわね」
「うん、今からね」
「お酒も抜けたし」
「これからよね」
「そう、戦いの幕開けよ」
元旦、それのだというのだ。
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