十幕 Lost Innocence
7幕
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「ユリウス……あのばか兄貴……っ」
ルドガーは俯いてぎり、と拳を固めた。そんなルドガーの手に、フェイはそっと手を添えるしかできなかった。
「残り少ない力で無茶をする――」
散らばっていたジュードたちが集まってきた。それぞれにクロノスから食らったダメージはあるが、エリーゼとミュゼの回復術で、自力で歩ける程度には持ち直している。そのことにフェイは安堵した。
「ビズリー。〈カナンの地〉へ入る方法を知っていると言ったな?」
「ああ――」
フェイは祈るように手を組み合わせ、ビズリーの答えを待った。どんな方法であれ、これで〈カナンの地〉に行くことができる。父と姉の「約束」を叶えさせてやれ――
「行かなくていい」
普段は高い声が低く、険しく、場の空気を切り裂いた。
「カナンの地なんて、行かなくていいよ!」
フェイは困惑した。ジュードたちも同じだ。ここまでやって来たのに、一番〈カナンの地〉に行きたがっていたエルが、それを拒絶した。姉の変心がフェイには理解できなかった。
「いきなりどうしたの、エル」
「分かってるでしょう。全ての分史世界を消すには、〈カナンの地〉でオリジンに願うしか――」
「そんなの! みんなで何とかしてよ! エルもルドガーも関係ない!」
するとルドガーがしゃがんでエルと目線の高さを合わせ、エルの首から下げた懐中時計を握った。
「みんなの言う通りだ。どうして急にそんなこと言い出すんだ。――約束しただろ。一緒に〈カナンの地〉へ行くって」
エルは目尻に涙を浮かべたが、それを振り切るようにきつく瞼を閉じた。
「や、約束なんて、どうでもいいし!」
「……どうでもいい?」
「そうだよ! パパの約束だってウソだった! パパが一緒にいたがったのは、エルじゃなくて……!」
そこまで言うと、エルは涙を散らしながら、その場から走り去ってしまった。
(どうして? ルドガーはパパとちがうのに。ルドガーのお姉ちゃんはお姉ちゃんだけなのに)
ココロの奥が「ズルイ」と囁く。フェイは自分がイヤになった。父が姉しか見なかったから、父と同じ彼には姉と自分を平等に愛してもらいたかった、なんて。
「分かんないよ……ルドガーもジュードもみんなも、今日までたくさんがんばったのに。何で、どうでもいい、なんて言えるの」
「ああ――」
「お姉ちゃんが何考えてるか、全然分かんないよ――」
ルドガーがフェイの頭を撫でてくれた。ココロの奥はやはり「ヤッタ」と暗い快哉を上げる。フェイは一層、自己嫌悪を募らせた。
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