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打球は快音響かせて
高校2年
第三十六話 当事者と傍観者
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響く。今度は3番の越戸。
左中間に打球が弾み、2塁ランナーの渡辺が悠々ホームイン。三龍アルプススタンドから一際大きな大歓声が上がる。両チームの選手達がベンチから出てきて、ホームベースを挟んで整列する。

スコアは9-2。三龍が8回コールド勝ちで、見事州大会の初勝利を収めた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「浅海監督、州大会での初勝利おめでとうございます!」
「ありがとうございます。」

試合後、浅海は球場外で報道陣に囲まれた。
フラッシュが焚かれ、その眩しさに浅海は閉口した。

「今日の試合はいかがでしたか?」
「ええ、選手達が思い切って積極的にバットを振ってくれて、その姿勢がそのまま9得点という結果につながったと思います。」
「浅海監督の狙い通りですね!」
「あ、ええ、チームの狙い通り、です。」
「それでは監督……」

矢継ぎ早に質問が繰り出され、浅海はそれに一つ一つ答えていくが、既にかなりの倦怠感が襲ってきていた。

試合について聞きたい所を尋ねるというよりも、この人達は“物語”を求めている。それも、“女の監督がチームを甲子園に導く”という、浅海からすれば実にむず痒く少し気恥ずかしくなるような物語を。もちろん、教え子の練習の日々に、甲子園という結果で報いたい気持ちはある。だが、このように自分自身がヒロインとして持ち上げられたいが為に、勝ちを目指している訳ではない。今日の試合など、監督の自分は何もしていないに等しい。取り上げられるべきは自分じゃない……

「あ、そろそろ切り上げてくれますか?生徒達待ってますんで。」

浅海の表情が段々と暗くなってきた時、インタビューの場に堀口がやってきて、この一言で取材はお開きとなった。解放された浅海はふぅ、と息をついた。

「ありがとうございます堀口先生。」
「ん?いや、ワシはただ早よこっち戻って来て欲しかっただけやけん。次の相手の試合も始まるけんの。」

堀口は浅海の華奢の背中をポン、と叩いた。

「浅海、お前疲れよるのう。まぁ、頑張ってもらうしかないがのう。」
「いえ、そんなに負担に感じてはいないんですけど、このメディアの報道ばっかりは……どこか違和感が拭えなくて……」
「ははは、そらそうじゃ。教師は生徒を伸ばすもんやけんな。今のお前は、明らかに目立ち過ぎとるの」
「でも自分ではどうしようも……私が取り上げられるのは女だからですし……」
「ああ、やけん、こげに取り上げられるのは今だけなんやけ気にせんでええんよ。女が監督しよるのが目新しいから話題になりよるだけやし、ずっとしよったら目新しくもなくなるやろ。」

堀口はスラックスのポケットから缶コーヒーを一本取り出して浅海に差し出した。浅海は遠慮せずにそれを受け取り、ぐっと一口飲んだ
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