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万華鏡
第六十九話 十二月になってその十六
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「別にな」
「いいのかよ」
「俺も入ったからな、入りたくて」
 だからだというのだ。
「そんなのはいいさ」
「けれど湯は残してくれただろ」
「それでかよ」
「だからな。悪いなってな」
 礼を言ったというのだ。
「そうなんだよ」
「そういうことか」
「そうだよ、じゃあな」
「今日は俺家にいるからな」
 兄はまた妹に言った。
「遊びに行くなら行けよ」
「今日は家かよ兄貴」
「昨日大分飲んでな」 
 それでというのだ。
「何とか家に帰ってきたけれどな」
「トラブルとかなかったよな」
「ああ、意識はあったよ」
 そうして帰って来たというのだ。
「ちゃんとな」
「それはよかったな」
「何も壊さず財布も落とさずにな」
「よかったよ、それじゃあ」
「そうなったらことだからな」
 兄もしみじみとして妹に話す。
「俺も気をつけてるさ」
「気をつけろよ、本当に」
 美優は真顔で兄に言う。
「さもないと痛い目見るのは自分だからな」
「だよな、そこは」
「あたしも一回酔ってえらいことになったからな」
「風呂場でこけたな、そういえば」
「ああ、それでお尻打ってな」
 それでだというのだ。
「暫く痛くて仕方がなかったよ」
「まあそれ位で済んでよかっただろ」 
 酒の失敗はそれどころでは済まない場合もある、中にはそれで一生ものの失敗をした人もいるのである。
「まだな」
「そうだな、痛い位で済んでな」
「酒は飲んでもな」
「飲まれるなってな」
「そういうことだよ。じゃあ皆でな」
「覗くなよ、風呂」
 美優は冗談混じりに兄にこうも言った。
「覗いたら目潰しだからな」
「馬鹿、妹の裸なんか覗いて何が楽しいんだよ」
「そういう奴もいるだろ」
「俺はそんなことしないよ」
 妹とその友達の入浴を覗く様な真似はというのだ。決してしないというのである。
「間違ってもな」
「妹に興味ないんだな」
「というかある方がおかしいよ」
 シスコンもそうなってしまうと、というのだ。
「だからそれはないさ」
「じゃあ安心していいか」
「安心しろ、安心」
 そこは絶対にと強く言う兄だった。
「というか今からゲームに忙しいからな」
「風呂からあがってか」
「今日はゲーム三昧だよ」
「今日だけかよ、それ」
「冬休みの間はだよ」
 ずっとゲームを楽しむというのだ。
「あとニコニコ動画にアニメにな。あとバスケもしてな」
「スポーツも忘れないんだな」
「そうだよ、じゃあな」
「ああ、入って来るな」
 こうした話をあっさりと交えてだった、そのうえで。
 美優達はまずは風呂に入った、そうしてそこで二日酔いの酒を抜いて一日を明るく過ごすのだった。冬休みのはじまりを。


第六十九話   完
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