幕間 第30.5話「空話〜独りの夜〜」
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ンジェリンの研ぎ澄まされた聴覚が拾っていた。
「……」
鬱陶しいという顔ではない。
ただ何かを懐かしむような、それでいて憂いを含んだ、長く生きてきた彼女だからこそ作れるそんな表情。
泣き崩れている楓に声をかけなかったのは彼女を馬鹿にしていたからでも、興味がなかったからでもない。
エヴァンジェリン自身にも似たような、経験があったからだ。
ナギ・スプリングフィールド。
ネギの父であり、エヴァンジェリンが唯一異性として好きになった男。自分に呪いをかけたまま行方知れずとなった偉大な魔法使い。
惚れた男に会えなくなったときの辛さを、彼女は誰よりも知っている。その分また会えると知った時、会えた時の喜びもまた麻帆良武闘祭が開かれた今日、コピーされたナギに出会うことで知った。
だから、エヴァンジェリンにはかける言葉など見つからなかった。
単なる失恋ならば、蹴ってでも元気を出させてやればいい。ウザイから泣くなとしかりつけてやってもいい。
だが。
楓の思い人、大和猛は確かにいなくなる。
それはいわゆる破局などといったそう簡単なものではなく。
一生のモノ。
即ち死別。
彼は死ぬ。遠くない未来。
だから。
――行方知れずとなり、ナギは死んだと聞かされたその日のことを思い出す。
その辛さをエヴァンジェリンも知っているから。
逆に声をかけてはいけないと知っていた。
重く響いた楓の声は、エヴァンジェリンの胸にすらその余韻を残していた。
――お前はこれでいいのか、タケル?
声にならないその問いは、現実と切り離されたこの異空間で舞い、消えていく。
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