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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
七月二十日:『千里の道も一歩から』
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……


 支度を終えて階段を降りたところで、掃き掃除をしている和服に割烹着の後ろ姿を見付ける。

「おはようございます、撫子さん」
「あら、お早う御座います、嚆矢くん」

 挨拶すれば、態々手を止めて朗らかな笑顔と挨拶を返してくれる。それだけで、今日も一日頑張れる気がした。

「そうだ、嚆矢くん。昨日の夜、停電があったんだけど大丈夫だった?」
「あ、昨日は早目に寝たんで分かりませんでしたよ」
「だから返事がなかったのね……それにしても、たまには樹形図の設計者(ツリー・ダイアグラム)の予報も外れるみたいね」

 全く気付かなかった昨夜の出来事、その万分の一以下の出来事を見逃したのかと思うと少し残念な気分になる。
 と、撫子の視線が嚆矢の胸元に落ちる。そこには、いつものラビッツフットと――

「あら、アクセサリー、増やしたのね? なかなか素敵なロケットじゃない」
「あ――あはは、そんなに良いものじゃありませんよ」

 『寧ろ最低最悪の部類と言うか』と言いかけて止める。別に止められてはいないが、一般人に魔術の域を垣間でも見せるのは、嚆矢としては好ましくないと考えているが故に。無論、時と場合によるが。

「じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」

 腕の腕章を確かめながら、笑顔に送り出される。その道すがら、いつも通りに缶珈琲を買い、ルーレットを当てる。
 今日もまた、いつもと変わらない。平穏な、実に穏やかな始まりであった。


………………
…………
……


 薬品の臭いが鼻を衝く。この病院と言う場所は生来苦手な場所だが、今日は昨日の落雷により冷房が使えないらしく、更に蒸し暑さまで加わり最悪の気分だった。
 そんな場所に、何故居るのか。単純な話だ。

「チッ……何が悲しくて、野郎の診察待ちなんてしてんのかね、俺は」

 吹き出す汗を拭いつつ、愚痴る。というのも、『虚空爆破(グラビトン)事件』の犯人、介旅初矢が取り調べ中に昏倒したからである。

――何でも、今朝いきなりらしい。しかも、落雷で連絡網が寸断されて俺の携帯までは回って来てなかったっぽい。いつも『巨乳』ティーシャツを着てるおむすびくん(仮名)に謝られた。
 何せ、支部に顔を出したらいきなり、この『水穂機構病院に行け』と交通誘導に行くみーちゃんに追い払われたからな……。

 じわじわと、拭いても汗は滲み出てくる。こんな陽気でとは、運命とはかくも残酷である。これなら、風の吹く屋外の方が幾らかマシだろう。
 『朝っぱらから一人でなにやってるんだろう』とか『今ごろ、空想上の生物・リア充さんは彼女とプールででもキャッキャウフフしてるんだろうな』と不貞腐れつつ、腕組して窓の外の日盛りを眺める。
 飛び乗った飛
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