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とらっぷ&だんじょん!
第二部 vs.にんげん!
第18話 いざすすめはめつへのびょうしん!
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る。酒は癇癪を起こさせ、彼の癇癪を宥める。
 酒はやめた方がいいと、言うべきかもしれなかった。彼の事を思うなら。が、ウェルドは結局、何も言わずにおいた。
「君は気象学の他に何をやっていたかね」
 喘鳴が止んだ。酒は命の水だ。
「建築学を」
「何故」
「特に理由はありません。コマが余っていたから、何となく」
「何となく……か。だがまあ、役には立つだろう」
 ボトルを机に戻し、濁った剣呑な目で、教授はウェルドを見た。
「カルス・バスティードを知っているな」
「……。噂には聞いた事があります」
「君はそこに行くがいい。あの町なら教会の手も及ばない。何より魅力的な遺跡がある……沈まぬ太陽、暗い冬も灼熱の夏も陰鬱な雨もない……神の御業の結晶と謳われる遺跡の謎を解明すれば、少なくとも現代の形而下学上の幾つかの分野から、神を追放できるだろう。時はかかる。君一代では終わらせられぬだろうが」
「有難うございます。しかし……」
 ウェルドは教授の赤い顔を見て躊躇ったが、尋ねた。
「サリット教授、あなたは日照りによる被害で家族が全滅したとお話しされました。神の意志を知る為に、気象学の道に入ったと。何故、逆方向の探究に進む俺にそのような助言をくださるんです?」
「……君は、実に多くの学者が、それでも敬虔なアノイアの教徒である事を忘れている。君の迂闊な所だ」
 教授は言った。
「私もそうだ。そうであったと言うべきだな。でなければ教会はたちまち矛先を君から私に変えるだろう」
「では――」
「君と私は違う。初めから神の不在を証明するつもりでいた君と私とでは、受けた痛みが違うのだ」
 からくり時計が鐘を鳴らした。内部の埃と錆びのせいで、酷い音であった。
 十三体の陶器の人形が現れる。人形は耳障りな音を立てて回る。キィキィ、キィキィと。
 老教授が吼えた。その気迫にたじろぎ、凍りつくウェルドをよそに、教授はワインボトルを手にからくり時計に襲い掛かっていた。
 ボトルが時計に振り下ろされ、両方とも割れた。赤紫のワインが散り、十三聖者の人形が、その上に落ちた。
「君にわかるか!」
 教授は跪き、壊れた人形に更に何度もワインボトルを叩きつけた。
「自らの情熱によって、信仰を、即ち情熱の源泉を! 破壊しなければならなかった者の痛みが!」
 透明な涙がワインに落ち、混ざりあった。硬直したままのウェルドを見もせずに、しかし確かにウェルドに向けて、教授は叫んだ。
「君にわかるものか!」

 ※

 それから何日経っただろう。よくわからない。目を覚ましたウェルドは、窓の外の雪に気付いた。
 講義に出なければならなかった。まだ学籍が残っていればの話だが。あれ以来、サリット教授の口からは、ウェルドの処遇について何も聞かされていなかった。
 起き
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