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SAO−銀ノ月−
第六十五話
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還者のための学校の見学日だった。その後のALOのこともあって忘れていたものの、最低限のことは見学してきたつもりだ。

「ああ、廃校って聞いてたから不安だったけど、案外綺麗な場所だったよ」

 本当は相談会やら体験授業やらもあったのだろうが、リズに会ってから即座に帰って来てしまったので、全く記憶にない。今度リズ……いや、里香と会った時に内容を教えてもらおう……と思っていた時、父からの問いかけが来た。

「……何か良いことでもあったか?」

「ッ!? ……ゴホッ、ゴホッ……」

 いきなりの父の一言に、ついつい食べていた物で咳き込んでしまう。……里香のことを考えていただけで楽しそうだと言われるとは、まだまだ精神修行が足りないと言うべきか。後で道場に寄って、素振りでもしてこなくてはなるまい。

 父はもちろん我が家の道場の主であり、俺や直葉の剣の師である。その性格は寡黙――悪く言うと無口で無愛想――と言って差し支えなく、先程からも食卓で特に何も言う事もなく鎮座していた。しかし、寡黙であると同時に職人的でもあり、その剣術の腕も含めて精神的にも、自分の超えるべき壁とも言うべき存在である。

 つまり、自分が平常心ではないのがバレたのは、それこそ目標としている父だからこそ見破られたに違いな――

「あら翔希、大丈夫? ……でも確かに、何だか楽しそうね」

 ――いわけではなかったようだ。父だけではなく、母にも見抜かれているところを見ると。むせたのは無理やり麦茶を飲み干して解決すると、照れ笑いを浮かべながら母に応対する。

「ああ、友達に……会えたんだ」

「へぇ……女の子?」

 この晩飯に入ってから早くも二回咳き込んだ。何故友達と言っただけで女の子になるのか、しかも何故それが合っているのか……! そんな俺の様子を見た母は図星だと思ったのか、さらに俺へと追求の手を緩めない。

「どんな子?」

「えーっと……」

 父は剣術としても親としても父としても、いずれは超えなくてはならない壁だが、母については……恐らくは一生、母に適わないだろう気もして来る……『事件』について触れないようにしつつ、明るく話してくれる母の優しさに感謝はしているが。感情をあまり表に出さない父とは、母は対照的な性格をしていた。

 母から追求される俺の友達の女の子の――もちろん里香のことだが――質問をのらりくらりと避けつつ、食卓は穏やかに過ぎていく。SAO事件の傷痕はまだ糸を引いているものの、俺のリハビリも大体が済んだ今は、自分達の家族は事件前と大差なく生活していた。……変わったところと言えば、俺がまだ剣術が出来るほどに復帰していないことだけだ。

 日常生活をするにあたっては不都合はないものの、剣術をやれるまでには復帰出来ている訳も
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