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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十五話 〈帝国〉の逆襲
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は前線の指揮官達に任せましょう。我らは森を見なくてはなりません」
初老の参謀長に美姫は微笑みかける。
「そう、ならば参謀長。貴方の意見は?」

「敵軍は火力の優越を利用して優位を確保しています。であるならば我々も軍直轄の砲兵隊を投入し、その他予備隊で支援を行えば持ち堪える事が可能です。龍兵も投入すればかなりの時間を稼ぐことが出来るでしょう。敵が消耗した上に我々にはまだ予備集団が居ます。石神は我々に勝利を確約しております」
 ――我々はこの世で最大最強である〈帝国〉軍だ。殿下の将器はそれを十全に活かし、勝利を勝ち取る事ができる事を私は知悉している。
 
「私はこの敵の本土へ侵攻した端に我々が苦戦したと敵に喧伝させるつもりはない。
参謀長、この点についてはどうか?」
 言葉だけを聞けば――焦っている様に聞こえるだろう。しかし、その目には焦燥の色はなく、ただ勝算を冷徹なまでに計算した将――否、王者の光を湛えている。かつて、この戦姫が父君の代わりに軍勢を率いた初陣の際も、その父――東方辺境領副帝――を亡くした時も、この眼で勝機を見抜き、当然のように勝ち、そして戦姫の名を獲たのだ。

「――御意のままに。」
 メレンティンは心の底からの敬意を込めてこの愛おしき戦姫に最敬礼を捧げた。



同日 午前第十三刻半 集成第三軍反撃発起戦より南方一里 
独立混成第十四聯隊本部 聯隊首席幕僚 大辺秀高少佐


初陣を終え、第十四聯隊は、前進した砲兵隊と合流し、軍司令部より命じられた護衛の任に就いた。
「正直、綱渡りだった。」
 弛緩した体を机に預け、扇子で顔を煽ぎながら聯隊長が呟いた。
 僅かに故州香の香りが漂う、幕僚たちの間でも“聯隊長殿の許嫁”から送られたものだというのは公然の秘密となっている。
 パチン、と音を立てて扇子を閉じ、幕僚の一人を指して問う。
「人務、部隊の再編は?」
 
「は、軽傷者10名は既に応急処置がなされております。聯隊長殿が発令した通りに本部護衛中隊と一部入れ替えて再編を済ませております」
 長山が報告を行いながら差し出した書類に目を通して決済を行った聯隊長が溜息をついた。

「重傷者は6名か、彼らは早急に後送隊に載せてやれ。」
 戦後の詳報には11名と記されていたが――後送に耐えられるのは6名のみだった。
 鉄筆をしまい、しばし紙をめくる音だけが響いた。そして、束ねた書類を長山大尉に渡して聯隊長は短銃を取り出した。
「戦死者の20名は受勲と感状が出るように申請を出す。」
 5度、かつての部下に向けて乾いた銃声を鳴らした特別誂えの短銃を手入れしながら云った。
「南部に限れば戦況は優位だが――情報、敵の軍団直轄の予備部隊はまだ出てきてないのだな?」

「はい、聯隊長殿。そして第三軍
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