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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十五話 〈帝国〉の逆襲
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 昌紀も北領で武勲を立てるまでは豊久の前線将校としての適性にはいささか疑問を抱いていた。だが、ことここに至っては素直に感嘆している。 そしてそれを相手の切り札に叩きつけた第三軍司令官の戦度胸にも。

「ならば龍火第一旅団に玉薬を回し、砲火支援を強めるしかあるまい。第五旅団がどうにもならんのならばそうするしかなかろう。その後に禁士隊を一挙に投入する。要は定石通りに行うしかなかろう」
 泰然としながらもどこかうんざりとした様子で神沢総軍司令長官が言った。
 戦力が不足した上に弱体であり、それ故に第三軍の快進撃への軍人・私人の感情を処理しきれないのかもしれない。
 ――もっとも、俺の心境を写しているだけなのかもしれないが、あれだけ弟分に見栄をきったのにこの無様だ。
 益満大佐は内心、苦虫を潰したような気持を味わいながらも自信に満ちた態度を崩さすに地図に視線を落とす。
「はい、閣下それに加え、敵は第三軍の攻勢によって南部の防衛線を縮小しつつあります。今からでも禁士隊を動かせば敵の一部を包囲できる可能性もあるかと」

「そうはいかないでしょう。未だに予備がでてきておりません。何かを企んでいるのは間違いありません。――第三軍を包囲する為に我々が突破されると云うのは御免ですな」
 〈帝国〉軍本営の予想位置から中央の近衛、そのまま第三軍後方まで指で曲線を書きながら情報参謀の宮原少佐が唸る。
 進撃している第三軍の足が止まったらそれも有り得ない状況ではない。
「もう一月時間があれば五〇一を使えたのだがな……」
 神沢は情けなさそうに溜息をついた。戦力が不足するのは戦の常と言うがなかなかどうして厳しいものである。
「はい、閣下。そうであれば我々ももう少し楽できました」
益満も首肯する。近衛総軍の擁する唯一つの鉄虎大隊は貴重な剣虎兵と導術兵を多数保有しているだけではなく小規模聯隊規模にまで膨れ上がっており、近衛総軍内においても非常に貴重な戦力である――あるのだが急造の訓練不足が懸念されるうえに天龍の利益代表者の弟君が観戦武官として大隊に同行している為、予備として後方に置いている。
 ――天狼会戦で守原大将が近衛衆兵第五旅団を後方に置いていた時の気持ちが分かる気がするな。政治としての利益は分からんが現場に於いては、まったくもって迷惑極まりない。 益満は産まれて初めて敗軍の将にして敵対派閥の長である守原英康大将に憐憫の情を抱いた。 〈大協約〉上の問題は存在しないが、天龍は神秘的な存在であり、過去には神聖化されていた事もある存在だ。つまりは万が一にも傷ついたら――兵達の士気に関わりかねない。
無関係の通りすがりならば兎も角、味方に居ればそうした時代遅れの神秘の龍といった憧憬や尊崇も復古されるものである。死地に居る兵は古臭い伝承だろうと蜘蛛の糸だろうと鰯
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