決戦の後に
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か?」
「ああ。助けられたかもしれない人間を考えるよりも、君の活躍によって助けられた人間を考えろ。マクワイルド少尉――君の部隊によって、私も、そして多くの兵士達が助けられた。それは紛れもない事実だ」
ゆっくりとあげられた最敬礼。
腕の角度など士官学校で叩きこまれた以来の敬礼だ。
だが、いまは、この若い戦士に向けてクラナフは用いる限りの動作を行った。
「君の活躍でカプチェランカ基地は救われた――全将兵を代表して、礼を言う」
アレスは驚きを見せた後で、丁寧な敬礼で、それを返した。
「任務を果たしただけです」
「良くやってくれた」
先に下ろしたのは、クラナフの方だ。
素早く腕を下ろすと、それ以上の言葉はなく、踵を返す。
彼に言った言葉の通りだ。
もしかすれば、彼の部下も、そして雪原に取り残された部下たちも助かる道があったかもしれない。
それを考えるのは、クラナフの――指揮官の悩みであるのだから。
+ + +
シャワーを浴びれば、凍えた身体が熱せられていく。
同時に疲れが汗と共に溶けていくように感じた。
考える事は、ラインハルトを守るために死んだ上官のことだ。
彼がいなければラインハルトは死に――あるいは、虜囚となっていた事だろう。
彼は狂っていた。
いや、帝国に狂わされた一人だ。
自らと同様に。
そんな考えは、今までは不快に思っていた事だろう。
命を救われたとはいえ、随分と安っぽい思いだと、ラインハルトは苦く思った。
だが、それを否定する事は出来ない。
彼と同じように家族を奪われた者がいる。
理不尽を被った者がいる。
全て帝国に――そして、あの皇帝にだ。
それでも自分は生きている。
ならばと思う。
「死は無駄にはしない」
静かに呟いて、ラインハルトはシャワーを止めた。
熱はすぐに冷えていく。
備え付けられた鏡を見れば、酷い顔をしている。
眼の下は黒々と変色し、疲れがいまだに滲み出ているようだった。
負けたな。
言葉には出さず、小さく舌の中で転がした。
敵の装甲車が使えなければ、敵基地の襲撃は楽にできると考えていた。
しかし、それは過小評価であった。
敵は動かせる装甲車を効果的に使い、援軍までの時間を耐えた。
もし援軍がこなかったら勝てていたなどと、楽観主義になれるわけもない。
敵は援軍が来るまで耐えて見せ、帝国を――ラインハルトを破った。
不思議な事に――彼にとっては、不思議な事に怒りは感じなかった。
彼にとっては負けることなど考えられず、常勝を常としていたにも関わらずだ。
これが初戦であったからだろうか。
ラインハルトは自問する。
幼
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