第六十八話 秋深しその八
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「間違ってもワーグナーにはなるな」
「人間としてはですね」
「あと鴎外にも漱石にもな」
「ベートーベンもですね」
「さもないと大変だぞ」
「誰が大変になるんですか?」
「周りも自分もだよ」
周りが迷惑を被るのは当然のことだ、しかし先生は琴乃に自分自身もまた迷惑を被るというのである。その様に言うのだった。
「大変だからな」
「性格が悪いと自分もですか」
「そうだ、自分自身もな」
またこう言う先生だった。
「大変なんだよ」
「性格が悪いと自分も大変なんですね」
「嫌われるからな」
周りからである。
「嫌われたら生きにくいだろ」
「それだけで嫌ですね」
「世の中嫌われても平気な人もいるけれどな」
「大抵の人は、ですよね」
「嫌われないに越したことはないんだよ」
「だからですか」
「ああ、嫌われないに越したことはない」
むしろだった、この場合は。
「好かれる方がずっといい」
「そして好かれる為にはですね」
「とんでもない人間にはならないことだ」
ワーグナーや森鴎外の様なというのだ。鴎外は正確に言えば森林太郎である。
「その方が自分にとってもずっといいんだ」
「周りにとっても」
「そういうことだよ。意地悪は自分にとって悪いことなんだ」
他人に対してするそれはというのだ。
「はね返るんだよ」
「自分自身に」
「下手をすれば倍返しでな」
あるドラマの言葉がここで出た。
「自分に返って来るものだからな」
「わかりました、私も気をつけます」
「そうしろよ、ヤクザ屋さんが嫌われる理由を考えるんだ」
「迷惑だからですね」
「それでヤクザ屋さんは生きにくいだろ」
「何かあればすぐに警察が来ますしね」
これで生きやすい筈がない、ちょっとしたことで警察が来る様な環境でどうして生きやすいというのであろうか。
「それで」
「ああ、本当にな」
「人間として立派になることですね」
「素晴らしいことをすることよりもな」
まずはというのだ。
「人間としてどうかだ、わかったな」
「はい、わかりました」
「じゃあ話は長くなったがな」
ここでこう言った先生だった。
「まあこれでな」
「はい、お話は終わりですね」
「とにかくいい題材だ」
奇襲に近いが、というのだ。
「題材も大事だからな、読書感想文は」
「何を読むかですね」
「ありきたりな本を読むのもいいが」
それもまた一つの道だ、だがというのだ。
「こうした少し変わった本を読むのもまたいいんだ」
「そのこと覚えておきます」
「オーソドックスもいいが」
それでもとだ、また言う先生だった。
「少し奇もいい、まあ個性だな」
「個性ですね」
「個性は出せ、いいな」
「はい、そうしていきます」
こうした
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